図らずもえろくないえろ。

 

恋なんて所詮エロスでできているに決まってる。無性にしたくなったときに相手もその気になっていたりすると本気でそう思う。だって恋なんて下心。でもだからって、してもいいことと悪いことってあると思う。

EX.1:いいこと、ふたりきりになるための嘘。
EX.2:悪いこと、強制的にしたい気分にさせること。

「終わったら殺すからなッ……!」
「はいはい」

お前なんか気持ちよすぎて死ねばいいのに。与えられる刺激にヤられちゃって右も左もわかんない俺の方が先にくたばりそうだけど。極限まで熱を高められて爆発でもするんじゃないかというほど熱い心臓を持て余す。

今日は抵抗もできなくて普段はまずしないのに四つん這いなんてみじめな姿で、どうしても対等でなくなるような気がして嫌なのに、それがいいのだとしらっと言ってのける男は俺がイってしまわない程度にゆっくりゆっくり熱をうがつ準備をしている。思わずさっさとしろなんてねだるようなことを口走ったって、自分だって興奮してるくせに絶対にスタイルをくずさない。
短い爪でそっと内側を引っ掻いて、動物みたいに舐める。他に誰もいないなんてそんなわけない、俺の見えないところでしっかり笑っているお前がいるじゃないか。自分でだって信じられないような、今まで何度もしたのに出したことのないような声が出て、自分じゃないみたいでどきどきする。他のいろんなもののせいにして、声を出すのをにわかに喜んだ自分が浅ましい。やっぱりことが終わったら、こんな俺を知っているこいつを殺そう。時と場合によってはあとを追ってやってもいい。

バカやろう、自分でもわかる、砂糖菓子のように甘い罵倒は果たして聞くのだろうか。感情を伴わない涙が握りしめたシーツを濡らす。いろんな意味で罵倒は効いてくれたらしく、ようやく、ようやく待ち望んでいたものが押し当てられた。震えた腰に熱い手が添えられて、金魚みたいに口をぱくぱくさせて出せない声を逃がした。ぐっと乱暴にねじこまれた瞬間に頭が真っ白になる。感じたことのない快感に体が溶けだしたっておかしくない。
ずっと体が熱いままで、快感の強さに入れられただけでイったことを知った。マジありえねえ。ふざける余裕をなくした声が更においうちをかけながら熱を放ったばかりのものに触れてきて、狙いを持った手つきにやめろと懇願した。これ以上気持ちよくなったらどうなってしまうのか恐怖さえ覚えるのに、体は冷えることを知らない。殺す前に俺が死んだら何が何でも呪い殺す。

「ブン太」
「やめろッ……!」

俺と一緒でいつも以上に興奮していることぐらい、中に入れられてしまったのだからはっきりわかる。そうでなくたって俺の言うことを聞かない今日なんだから、更にどんなことをされるのだろう。これ以上の快感に堪えられる自信がない。

「動いていい?」
「だめ、やめろ」
「ブン太」

かすれた声に目を瞑る。余裕のない声、強くまぶたを閉じても息遣いは聞こえてきて、顔が見えた方がましだった。

「……顔、見たい」
「ダメ。必死だから」
「そんなんっ……あっ、やめろマジ、ふあッ!」
「ッ、そんな声出されたらもうッ……」
「やめろッ、おかしくなるッ――!」

卑怯だ。いつだって俺を騙そうと企んでずるい手段で俺をなだめて、今度という今度は許さないといつも思うのに結局隣にいるのは、

「仁王ッ!」

恋って気持ち悪い。

 

*

 

「ほんっまごめん、許して」
「1000回死ね」

正座させた仁王を見ずに吐き捨てる。困った顔なら見たいけど、どうせいつものようにへらっと笑っているに決まってる。腹が立って頭まで布団に潜り込み拒絶する。

「ブン太」
「信っじらんねえ」
「でも気持ちよかったじゃろ?」
「やっぱり死ね」

珍しく仁王が泊まりに来いなんて誘うから、補習のための勉強だとか次の試合のミーティングだとか色んなことをする、と適当な嘘を吐いて家を出てきた。俺が泊まりに行くなんて大抵はジャッカルのうちばかりだから、前に1回仁王のうちにと言ったとき親に驚かれてから何となく言いづらくなっている。なんで仁王くんち?悪いことする気じゃないでしょうね?と言外に問われた。仁王の印象を聞くのが怖い。
でもジャッカルのうちに泊まると嘘を吐くのはいかにもな感じで嫌だった。普段仁王は人を家に呼ばない。俺に限らず大抵のやつは仁王の部屋に入ったことがないだろう。だから時々こうして呼ばれると嬉しくて、何が何でも来たくなってしまう。だから、小さい嘘を重ねてきたのに……!

「どういう経路でフツーの中学生がいかがわしい薬を入手できるわけ!?」
「フツーじゃないけん」
「自分で言うな」
「まさか本物だとは俺も思わんかったぜよ。あんなにブン太が乱れてくれるならもっともらえばよかった」
「……俺の手で殺す」
「本望じゃな」

仁王が布団をまくって覗き込んでくる。気だるさに任せて視線だけ返したら、身を乗り出した仁王にキスをされた。許してやるわけにはいかないからしかめっ面で睨んでやる。

「ブンちゃん、恋って字 教えちゃる」
「下心はもう聞いた!」
「違うやつ」

隣に潜り込んで来た仁王の手にはペンが握られている。利き手を捕まれて、仁王は喋りながら手のひらにペンを走らせた。

「『いとしいとしと いうこころ』」

「……は?」
「恋の旧字。なかなか純愛じゃろ?」
「……つーか、誤魔化されねえからな!」
「あら。しゃーないね」

優しく抱きしめられて一瞬ほだされそうになるけど振り払う。男の俺でも心臓を鷲掴みにされるのだから、大抵の女子はあっという間に落ちるのだろう。わかんねえ、欲目かも。
こいつの腹の中が真っ黒だってわかってたとしても、だまされたぁい!と思っている女子はたくさんいるはずだ。仁王が男とつき合っていて、これはうぬぼれも含まれてるけど、すっかり俺に参っているなどと知ったら、一体女子はどうするのだろう。

「どうしたら許してくれるんかね」
「高いぜぃ」

俺を抱きしめたまま仁王は笑う。へらっとして子どものようだと思うけれど、それはこの表情のときだけだ。恋の字を書いた手のひらを合わせて手をつないで、顔を上げるとにやにやと緩い顔で笑っていた。

「でもほんまに、あんなエロいブンちゃん見れて満足じゃ。よだれ垂らしてよがってたもんなあ」
「垂らしてねえ!」
「はいはい」
「お前だって薬も飲んでねえ癖に興奮しまくってたじゃねえか!」
「それはブンちゃんがエロいから。俺を興奮させるのは薬じゃなくてブンちゃんやけん」
「……それって、なんか俺がスゲー淫乱みてぇな言い方」
「間違ってる?」
「大間違い!それじゃ俺が真田に迫ったってメロメロにできるみてぇじゃん」
「何つー例え。……やるなよ」
「やんねーよ。真田のお前のよりでけーし、イテッ」

鼻をつまんで引っ張られた。不満そうな声がする。

「体格の話はお互いタブーじゃろ」
「腹つまむな!」
「また太ったか?」
「またってなんだよ、またって!ずっと変わってねえよ!」
「イッテ!」

頭の後ろの尻尾を引っ張ってやると凄い顔をした。このやろう、と睨んでくるからすかさずその顔を掴んでキスをする。仁王が止まったのは一瞬で、すぐにその気になってきた。唇を合わせながら仁王の上に乗り上がる。

「太ってねえだろ?」
「…・・・動いてくれたらわかるかも」
「その顔変態くさい」
「もう変態でも何でもいいわ。ブン太相手なら変態にもなるって」
「どういう意味だよ!」
「ぅお」

萎えていたものを掴んでやると変な声。淫乱、引きつった笑みが向けられて、満足したので笑ってやる。やられっぱなしは性に合わない。

「あーもう……好きにせい」
「あ、でも明日朝練か。風呂入って寝ようぜ」
「ちょっ……ブンちゃん?期待してる息子どうしてくれんの」
「今度」

きゅっと一瞬先端を擦ってやって、仁王の顔が歪んだのを見て上から降りた。引き止める視線に気づいても無視だ。

「風呂借りるぜぃ」
「……この性悪!」
「俺を思い出して抜くぐらいなら許してやる」
「……あーあ、毎回顔真っ赤にしてたブン太はどこへ……」
「お前のせいだろうが、この変態」

何がいとしいとしという心、だ。恋なんて結局下心じゃねえか。だってお前、風呂までついてくる気だろ。

 

 

 

 

070728