※屋上なんかでエンヤコラ
背に腹はかえられぬ
「なんで俺らって、ベッドでセックスできないの」
「別に、ブンちゃんがお望みならラブホ連れてくよ」
「嫌」まぶしい太陽の下で目を細めたついでのようにキスをする。仁王が食べかけの昼食を追いやったのが見えた。こんな夏の太陽の下ではこんなことをしている間に食べられなくなるだろう。もったいないと思うのに、丸井は仁王の首に手を回す。汗ばんだ肌同士が触れ合う。屋上の貯水タンクの影で抱き合って、何もしてなくとも汗が止まらないのにバカなんじゃないのかと自問しながら。
少し甘い唇を舐めてどっちが甘いのかわからないまま深く舌を差し込む。食欲より性欲が勝ったら終わりだ。この暑さのせいで回路が狂っているとしか考えられない。口腔を犯しながらネクタイを引き抜き、ボタンも外さないまま仁王の手がへそを撫でる。それだけなのに確かに快感を見つけた自分にうんざりしながら仁王のネクタイも手探りで外してやった。苦しくなってきて顔をそらし酸素を求める。「あっ、はぁっ……」
「なんだかんだ言って、感じるくせに」
「……頭おかしくなってんだから責任取れよッ」喋る暇を与えずしっかり抱きついてまた唇を塞いでやる。タンクに丸井の背を預け、隙のないキスを続けながら仁王はベルトを外しにかかった。頬を背中を、汗が流れていくが構っていられない。一度離れて大きく息を吐き、仁王の手が下着の中に入ったのに体を震わせながら汗で濡れた前髪をかきあげる。唇を舐めて、ちら、とこちらを見た仁王の顔を引き寄せて何度目かわからないキスをした。軽く触れるだけのキスを繰り返し、抵抗が見えると唇に軽く歯を立てる。
「ブン太」
「くわえたかったらワンワンってお願いすれば?」挑戦的な視線を送ってやればむっとしたのがわかって、調子に乗ってまたキスで引き止める。熱い舌を絡めて歯列を撫で、そのたびに歯並びが悪いと思いながら。仁王が握った中心を擦ってそのどうしようもない快感に身を震わせながら、意地のようにキスを続ける。
「ブン太」
「……お前、卑怯だぜぃ」
「誉め言葉じゃな」
「バカ」汗が目に入って乱暴に拭う。引っかくような指先に与えられる刺激に断片的な声にもならない音を漏らす。通り過ぎる風さえ生ぬるい。タンクに片手をついて、丸井に覆い被さるように仁王のキスが降る。額にまぶたに、汗を舐めて首筋に。鎖骨をなぞるように舌が這う間にも下への愛撫を止めることはない。荒く短い呼吸を繰り返して名前を呼ぶ。
「あっちー!」
「げーっ焦げる!」
「めんどくせえ〜」第三者、どころか複数の声にふたりは硬直する。さっと血の気が引いた。さっさと終わらすぞ、理科教師の声がする。屋上の人口密度が急上昇するのを声だけで判断しながら丸井が呟いた。
「日時計」
「……何て?」
「日時計の実験、俺もした」仁王が言葉を失う。そういえば今度やるとかやらないとか、パグのようなあのおっさんは言っていた気がする。息を殺して声を聞くがなかなか終わりそうにない。仁王がわずかに萎えた自身から手を離すが、欲に溺れきった 瞳はそのままだ。自分だって同じに違いない。ふと見れば仁王のものも張り詰めていて、膝を立てて軽く押してやると眉をひそめる。その表情に、興奮した。にやりと笑った丸井に嫌な予感がしたのだろう、体を起こしかけた仁王のベルトをそれより早く捕まえる。キスで声を消しながらゆっくりベルトを外し、その小さな金属音にも怯えながら前をくつろげる。たしなめるような視線にも黙って返した。感じるくせに。口だけで囁くと笑った。スイッチオン、だ。
「北ってどっち」
「先生磁石壊れてる〜」
「落とせ落とせ!」
「やめろってマジ!」
「焼けるー」
「お前汗すげえよ」基本的に立ち入り禁止の屋上の、更に高い場所にいるのでそう簡単に見つかることはないとは思う。それでも異常だ、わかっていながら熱い息をこぼしてお互いのものを握る。確かに快感を与えることを目的としながら、瞳の中を探るように見つめ合って。絶対頭おかしくなってる、汚れた手を舐めて呟く。
「仁王、舐めたい」
「――お願いすれば?」突風が吹いて汗で濡れたシャツをはためかせた。汗をかいた肌に気持ちいい。スカートスカート!焦る声がずっと遠くに聞こえた。仁王の一瞬の囁きに熱が上がって、シャツを掴む。暑さで朦朧としながらもはっきりわかるのは、ほしいものだけだ。
「くれるんだろ?」
仁王の手を払って体を倒す。立ち上がった仁王のものに手を添えて唇を押し当てた。仁王はもう拒まない。タンクに腕を預けて、その下にいる丸井はまるで匿われているようだと思った。先端から舌を這わせると先走りがこぼれてくる。揺れた仁王から汗が落ちてきた。きっとこんなに暑くなければこんなことしていない。ゆだるような暑さの中でしかできないだろう。影であるとはいえ炎天下、真っ青に透き通った空の天井。男の性器をくわえて腰を振って、親不孝なんて言葉が頭をよぎる。
かすれた声で名前を呼ばれて限界を知った。迷う前に頭を押さえつけられ、応えるように舌を動かしながら吸いつく。くすぐるように触ると頭を押さえる力が強くなった。切なくなるような息と一緒に熱が溢れてくる。最後まで口で受けて何度か飲んだが、結局むせてこぼれた。コンクリートに落ちる白濁を見ながら仁王が深く息を吐き、まだ肩を揺らしている丸井の腕を引っ張って起こす。今度は丸井を膝で立たせてタンクに向かせ、下着ごと制服を脱がしてすぐローションに浸された手が肌を滑らせた。背筋を走り抜けたものは快感なのか。
「ンッ……!」
体は簡単に侵入を許す。グッと乱暴に押し込まれたくせに痛くもない。背中を流れる汗にも震えながら、シャツ越しの背中に歯を立てられて息を飲んだ。手だけでは支えきれずにタンクに額を押しつけて、唇を噛んで声を殺す。それに気づいた仁王が空いた手で口を塞いだ。背中に仁王が近くなり、熱を取り戻しつつあるものが触れる。そうしながら侵入する指が増えて、ほとんど無意識に唇に触れる仁王の指に吸いついた。熱い吐息が首に掛かる。余裕なんてどこにも残っていない。急くように指がまた増えた。
「あっ!あっ、そこっ……」
「うん、もうちょい我慢な」
「ん、ふぁ」耳元で仁王が囁いて指を抜く。代わりにずっと熱いものが押し当てられた。息吸って、名前を呼ぶ声にあわせてゆっくり呼吸をする。吐く息と一緒にうなずくとすぐに熱がねじ込まれた。
「あッ――!」
「動くぜ」
「んッ、」奥まで押し込まれた熱よりも前に回されて丸井のものを抜く手よりも、何より仁王の声が一番丸井をダメにする。夏でも冬でも関係ない。中を突かれるたびに声を落として、首を濡らす汗にも構っていられず、背中に張り付く仁王の体が熱すぎて溶けて混ざり合ってしまうのではないかと思った。
「ブン太!」
理性も意識もぶっ飛んで、もう止めるものは何もない。
*
「……正気じゃねーよな」
「まあな」水でも被ったように汗で濡れたシャツをとりあえず風に任せてみるが、再び着る気は起こらない。だっせーけどジャージで帰ろうかな、反射する白を目を細めて見ながら考える。丸井の口淫で一度達しているせいか、自分より疲れている様子の仁王は手足が日影から出るのも構わず大の字になって寝転んでいる。シャツに弁当箱を乗せて手放し、首に巻いたタオルで顔から首にかけての汗を拭った。きりがないのはわかっているが汗がくすぐったい。上半身は裸なので風が吹くと気持ちよかった。流石に脱げないズボンは膝まで折り上げてある。仁王も似たような格好だ。
「そういや、いつの間にあいつら出てったんだろ」
「空気読んだんじゃろ」
「あーナルホド。仁王ががっついてんの見られたんじゃねーの?」
「ブンちゃんがむせるからー」
「多すぎんだよ。俺がいなくてもひとりでちゃんと抜きなさい?」気だるさに目を閉じたくなるが、流石にもうすぐホームルームだ。それには戻りたい。
「……ブンちゃんのえっち」
「仕込んだのお前」
「光源氏じゃな」
「そこまで言ってない」携帯で時間を確認し、生乾きのシャツに袖を通す。ネクタイを掴み、ふと周りを見渡した。
「……におー、お前ネクタイは?」
「んー?」起き上がった仁王も周囲を見たが、ネクタイらしきものは見当たらない。丸井はしばらくネクタイを観察し、それを黙って首に回す。
「……ブンちゃん、それ俺のじゃろ」
「違う、俺の」
「じゃあまーるーいーって名前見せんしゃい!」
「お前のものは俺のものだろ!」
「……ちょっと、頷きかけたぜよ」
「んじゃ、またな」シャツの裾から空気を送りながら丸井はさっさと行ってしまう。呆れて仁王は再び寝転がるが、すぐに足音が戻ってきた。
「仁王」
「ん〜?」
「鍵閉まってる」
「……あ!」体を起こすと危うく頭をぶつけそうになる。しかし今はそれどころではない。
「……授業の後」
「閉めたんだろうな」溜息を吐いて隣に座り、丸井は恨めしげに仁王を見る。次の言葉はきっとこう。
「お前のせいだ」
「……はい、もー何とでも言って」
「どうにかしろよ」
「はい、すいません」外したネクタイは抜かりなくポケットに押し込み、タオルを首で結んでいる丸井は疲れのせいか荒んでいる。しばらく黙って見ていると、何だよ、と完全に威嚇体制の声が帰ってきた。大人しく携帯を手に、鍵を開けてくれそうな悪友へ連絡するが、ホームルームが終わらなければ無理だろう。
「あーあ」
「……何」
「時間できたからキスでもする?」
「賛成。ブンちゃん大好き!」
070807