※こたつで悪ふざけの延長

 

 

「おー、こたつだ」
「ブンちゃんちこたつないんやっけ」
「ない。母さんが嫌いなんだ」
「入ってええよ」

仁王家のこたつは電気カーペットを敷いた上に机を置いてこたつ布団をかけてあるのだが、なかなか暖かい。カーペットの電源を入れてこたつを指さし、便所行ってくると残して部屋を出る。
久しぶりに丸井がうちに来た。というのも今までなかったほど厄介な喧嘩をしていて、今日ようやく仁王が折れた。いい加減触りたくてしょうがなくなったというのが本音だ。用を足してついでに台所へ向かい、丸井が好きそうなものを物色する。
何だかんだで丸井も溜まってるだろうから今日は……などと邪なことを考えつつこたつへ戻ると、丸井はすっかりくつろいでいる。いつもは姉のポジションであるテレビが正面から見える位置に座り、背中を丸めて両手まで中に入れていた。愛おしい背中を抱きしめたいのを我慢して、斜め前に足を入れる。コツンと足がぶつかって丸井が足を引いた。見つけてきたスナック菓子を机に置くと丸井が目を輝かせ、こたつから手が伸びる。

「久しぶりじゃな、ふたりになるん」
「……何、俺が悪いわけ?」
「もうええじゃろ、その話は。喧嘩はしとぉない」
「……俺も」

照れ隠しのようにスナック菓子の袋を豪快に開けて、さくさくと食べている丸井を見ていると思わず笑みがこぼれる。こんな気持ちになるのが恋愛なのだろうか。ことあるごとに恋愛をする資格がないと柳生に責められるが、この姿を見せてやりたいぐらいだ。

「仁王こないだのテストどうだった?」
「まあまあ、可もなく不可もなくってとこやのう」
「どっちだよ。俺英語上がった。久しぶりに赤也に感謝したぜ」
「結局赤也はどうやったん?」
「はっきり言わねえから怪しい」
「喧嘩までしたのにのう」
「ふっかけたのはテメーだろ」

切原の英語がまずいのは以前からの問題だったが、部長という肩書きを預けた今、それもおろそかにはできないと丸井に泣きついてきたらしい。丸井を選んだ切原は賢明だ。スパルタ揃いの先輩の中においては丸井が一番面倒見がよく、そして他のメンツと比べるとはるかに飴と鞭のバランスがいい。切原の怖い先輩方は鞭ばかりが強力なお方ばかりだ。ちなみに本来第一候補になるはずのジャッカルは可愛い彼女とテストのたびに勉強会をしているので外されたらしい。優しくはあるがジャッカルの場合は鞭が足りないのだと切原もわかっているのだろう。面倒見がいいと言うよりは甘いだけなのだ。
切原の誤算らしい誤算は仁王だっただろう。普段は構わなくとも、いざ取られてしまえば惜しくなる仁王の性格をまだわかっていなかったようだ。部室や図書室で勉強しているのを見かけてはちょっかいを出して邪魔していたのだが、テストが始まる直前に丸井がキレた。あれから2週間ほど経っただろうか。目も合わせてくれない避けようで、それに腹が立った仁王も無視を続けたから長引いた。結局終わりは簡単で、昇降口でたまたま一緒になってしまったらバカらしくなったのだ。目が合ってしまえばお互い苦笑するしかなくて、仲直りのつもりで家に誘った。

そう、仲直りだ。こたつの中で足を伸ばして丸井の足をつつく。指先が触ったのが足の裏だったらしく、びくりと肩を上げて丸井は仁王を睨んだが、そんな抵抗にもならない抵抗は論外だ。机の足を邪魔に感じながらも丸井の方へ寄り、名前を呼ぶ。それだけで長いつき合いの丸井には仁王が求めているものはわかるはずだ。しばらく無言で仁王の顔を見て、笑いをかみ殺すかのように唇を噛む。拒否はないのを見て身を乗り出した。俯きがちの額にキスを落とし、顔を上げた丸井の唇を奪った。スナック菓子の味がするのは自業自得だと我慢しよう。軽く歯を立てて唇をこじ開ける。慌てたように押し返されて、ここで機嫌を損ねたくはないから大人しく一度離れた。仁王の不満げな顔を見て丸井はまた俯く。できるだけ優しく名前を呼んでやると、珍しく耳まで赤くしている。

「ブン太?」
「……なんか、恥ずかしい」

ぐっときたのを押さえ込む。久しぶりなせいなのか、キスぐらいで照れている丸井が可愛くてたまらない。理性と本能の狭間で意識が揺れる。

「……ブン太」
「ま、待って、……ちょっとだけ待って」
「……ちょっとな」

思わずふてくされた顔をしてしまい、見せたくなくてこたつに潜り込む。肩まで入ってしまい顔を伏せた。体だけが目当てなわけではないが、知ってしまっている快楽を求めてしまうのはしかたないだろう。丸井だってわかっているはずだから怒りはしない。暖かいこたつの中で欠伸をする。

(生殺し……)

 

 

*

 

 

目を閉じただけのつもりがうっかり眠りに落ちていたらしい。腕に感じる重みに目を開ければ、仁王に隠れるように丸井が丸くなっている。前髪を払って顔をのぞき込むが、熟睡しているようだ。溜息をつき、緩められた胸元をのぞき込む。規則正しい鼻息でカッターシャツの襟が揺れていた。全く、近づけば逃げる癖に知らないうちに距離を積められていては、詐欺師は本領を発揮しにくいと言うのに。
ばか、寝耳に言葉を投げてゆっくり枕にされている腕を引き抜いた。さあどうぞと言わんばかりの態度だ、何をされても文句は言えないだろう。勝手に決めつけてこたつの中に手を伸ばすと、丸井のズボンに手をかけた。ベルトを外して前をくつろげ、丸井の顔を見ながらそっと手を忍ばせる。下着の上から性器を握り、揉みしだくうちに丸井が小さく呻いて眉を寄せた。それでも起きる気配はないのでそのまま手を動かし、閉じられたまぶたや頬にキスを落とす。

「ブン太」

顔が上がらないので表情はよくわからないが、かすかに鼻から抜けるような声が漏れている。起きたらこの悪戯を怒るだろうか。かたさを持ち始めたものを今度は下着の中に手を入れて、感じるところを狙って爪を立てた。体が震えたのを感じて一度手を離し、下着ごと脱がしてしまう。

(全然起きない……)

無理矢理顔を覗き込んで鼻先にキスを落とす。振り払うように顔を上げたのですかさず唇を重ねた。乾いた唇を濡らして舌をすくいながら、手の動きは止めない。そのうち息苦しくなったのか、押し返してきた手を捕まえて指先を噛んだ。

「ん、え……?……に、仁王ッ、あっ!?」
「あ、起きてもうた」
「何し、いてっ」

起きあがろうとしたのをこたつに遮られ、肘をぶつけたようで動きが止まる。その隙に一気に攻めると油断した口から声が漏れた。何してんだよばか!次の瞬間飛んできた罵声など可愛いものだ。

「だってブンちゃん、お預けにした癖に可愛いことして、据え膳食わにゃ男の恥じゃろ」
「誰が据え膳だッ!」

爪を立てると生意気な口がキュッと閉まる。やっぱり起きてる方が可愛い。仕草だけでキスをねだると、赤い顔で仁王を睨みながらも顔を寄せてきた。かぷりと唇を覆ってあおるようなキスをしながら、そっと後ろに手を回して尻の狭間に指を這わす。胸を叩かれたが構わずに襞を撫でると、体をよじってキスから逃れた。

「やめろッ……」
「何で?したくないなら来んかったらよかったんじゃ」
「違う、こんなとこでッ、あっ」
「ああ……そうやね、汚さんよう頑張って」
「違うだろバカ!まっ、待って、ニオ」

ゆるゆると襞をなぞるだけの指がもどかしいのか、握り込んだものが少しずつかたさを増している。仁王が笑うとそれがわかったのか、きっと睨んできた後バカ!と一際大きく飛んできた。

「別に部屋帰ってもええんじゃけど」
「だったら部屋で」
「でもな、寒いぜよ」
「……エアコン壊れてんだっけ」
「そう。やし、寒いとこでブンちゃん脱がしたら可哀想じゃな〜と」
「でっ、でもこんなとこ……」
「誰もおらんけん、大丈夫じゃ」
「そういう問題じゃねえだろ……」
「……俺は、今、したいんじゃけど」
「……バカ!」

拒否ではないのは経験でわかる。イイ子、と額にキスを落とすと不満げに唇をとがらせ、その表情が好きで焦らしてしまうのだと丸井は知っているのだろうか。

「ローション取ってきてええ?」
「……お前ってムードとか何もねえよな……」
「セックスってムードがいるようなきれいなもんじゃなかよ」
「……さっさと戻って来いよ」

丸井様のお言葉に頷いて、暖かいこたつから這い出て部屋に向かう。嫌がられれば移動しようと思ったが、丸井もあれで嫌いではない。しばらく使っていなかったので探すのに手間取り、こたつまで戻った頃には丸井は座ってみかんを剥いている。下半身がどうなっているのか気になるところだ。

「遅い」
「すまん」
「もうやる気なくした」
「……ほう」

そう何度も言うことを聞いてやるほど寛大な男ではない。側に立って丸井を突き飛ばし、その体を跨いで手からこぼれたみかんを丸井の口に押し込む。ヤバい、という顔をしたが気にしない。直されていたズボンも手早く引き剥がし、まだ萎えきったわけではないのを確認して笑う。

「待てッ、仁王」
「待たない」
「や、あっ!」

丸い尻をつねって見下ろすと、どういう態度にでるか迷っているようだ。怒るのは簡単だが、仁王がふざけているだけなのか判断できないのだろう。そうしている間に丸井の頭に背を向けるように向きを変え、こたつから出ている腰から下をゆっくり撫でた。足の間で丸井が体を震わせる。

「仁王っ、やだ、やめろッ」

言葉は返さずに手のひらにローションを落とし、その手を足の間に滑り込ませる。冷たさのせいか高い悲鳴が上がった。頑なな穴を撫でて指先を押し込む。

「仁王!」
「勃たせといて偉そうに。溜まっとらんの?」

足や背中を叩いてくる手が邪魔で、ゆっくり抜き差ししているだけだった指を増やして中を探る。角度が違うせいで丸井が弱いところを見つけにくい。もどかしいのか丸井も言葉では抵抗するが吐息は熱を上げていき、手が仁王の背中にすがる。

「本気で嫌なん?やめてもええよ、このまんまでブン太置いて、俺はそれ見て抜くけん。ぶっかけるかもしれんけど」
「やめろよっ……」
「どっちを?」
「ッ……さ……触って、ちゃんと」
「……ん」

ぐっと指を押し込むといいところをかすめたのか、こたつの中で足が動いた気配がした。指を抜いて丸井から降り、腕を引いて体を起こす。目をとろんとさせた丸井に今更抵抗する気はないのだろうが、マグロを決め込まれそうだ。

「舐めて」
「……お前なッ……」
「触ってほしかったらブン太から手を伸ばすんが筋じゃろ」
「……お前、散々人のこといじっといて何も感じないわけ」

丸井の手が仁王の股間に触れる。かたくなっているとは言ってもささやかな反応に顔をしかめ、それが不満だったのかすぐに前を開けた。それでも素直なのは久しぶりだからだろう。感触を確かめるように指先で撫でて、仁王の様子をうかがいながら体を倒した。舌を這わせば反応があるのを楽しむかのように丸井が動き出す。テニスに関しては自ら天才的と使うように天才であるとは言わないが、この手のことに関しては天才と言ってもいいのかもしれない。仁王以外で練習していなければ、の話だが。
先端をくわえられて、ゆっくり飲み込まれていく自身が熱を集めていく。大人しく快感を受けていると更に気をよくしたのか、いつもよりも熱心だ。行為自体は嫌いではないらしいが、仁王優位で行われると屈辱らしい。揺れる舌に委ねて邪魔そうな髪をかきあげてやる。机に姉が忘れていったヘアピンを見つけ、それで固定してやるとわずかに視線を上げたがそれだけだった。わざと音を立てて先端を吸われる。丸井のこんな姿を誰が想像できるだろう。ブン太、名前を呼んだ声が予想外に乱れていて、愛撫を続けながら丸井が笑ったのがわかった。

「どうする?」
「……飲んで」
「ん〜……お前たまにそれで満足して終わるからな……」
「欲しいんやったらおねだりしてみんしゃい」
「……変態」

体を起こした丸井がズボンから足を抜き、そのまま仁王に跨ってきた。ぶっかけてやろうと思ったのに、と言え ば怒るのだろう。濡れた性器をすり合わせて丸井が笑う。

「ニオー」
「丸井くんおっぱい見せて」
「え〜、寒いじゃん」

言いながらもベストを脱ぐ丸井にえっち、と笑ってやる。シャツのボタンを外す仁王の手を見ながら、丸井がネクタイを引き抜いた。直接肌に触れて腰を引き寄せ、興奮で立ち上がった乳首に吸いつく。漏れる吐息が頭上をかすめ、誤魔化すように丸井の手が仁王の髪をもてあそんだ。中途半端だった後ろにも手を回し、そっちへの侵入も進めるともう完全に丸井の抵抗はない。揺れる腰が触れ合った性器を刺激して、仁王が声を漏らしたのを丸井が嬉しそうに頭を撫でた。

「ブン太、そんな動かれたら入れる前にイきそう」
「入れたいならそう言えよ」
「入れてほしいんやったら口で言い」
「誰が、ッあ……」
「下のおクチの方が正直じゃの」

腰を持ち上げて丸井を膝で立たせた。ひくついたそこに高ぶったものを押し当て、丸井を見上げる。期待と焦燥の混じる表情に思わず口づけて、そのまま丸井の中に自身を沈めていった。もうこの体がほしいだけで、何も考えていない。駆け引きも冷やかしもしている場合じゃなかった。

「はぁッ、あっ……バッカ、簡単にデカくしやがって」
「エロい顔。こんなぐちゃぐちゃにしとってよう言うわ」
「も、喋んなッ」
「賛成」

キスで口を塞がれて、仁王もそれに応えて舌を伸ばす。押し返されたかと思えばそのまま突き飛ばされ、丸井がにやりと笑って見下ろしてくる。逆光でも頬が赤く染まっていることがわかるほど興奮していた。

「じっとしてろ」
「……えっち」

 

 

*

 

 

いつものめちゃくちゃな理由でコンビニにお使いに行かされ、戻ってくると丸井は3つ目のみかんを食べていた。食べていいと言った覚えはないが、丸井にしてみれば置いてあるものは据え膳なのだろう。お帰り!と向けられる笑顔は、明らかにビニール袋に向いている。

「……俺とアイスどっちがいい?」
「アイスに決まってんだろバカ」
「ヒドいのう、とんだ性悪じゃ。スケベやし、変態やし」
「好きだろ?」
「大好きです」

こたつでアイス食べたい、との要望を叶えてやるべく袋を渡す。喜ぶ丸井の真横に入れば、不満そうな目を向けられた。

「狭いんだけど」
「同じ向きで入ったら足ぶつからんじゃろ」
「向こうに入れよ」
「遠いじゃろ〜。運動した後にパシられて疲れとるんじゃ、いたわってよ」
「動いたの俺だし、お前寝てただけだし」
「ブンちゃんのリクエストじゃろ」

埒があかないと判断したのか、それ以上返さずに丸井はアイスを取り出した。お使いができたことに対してか、机に頭を落としてふてくされているとよしよしと撫でられる。にこにこしながらアイスを食べているのを見るとどうでもよくなってきた。

「ブンちゃん」
「何」
「高校行っても仲良くしてね」
「……会いに来いよ」
「うん」

心なしか肩を落とす丸井に笑いかける。さあ、……工業科へ行くなんて嘘だといつ教えてやろうか。正しくは嘘ではない、最近までその予定だったのだ。
中学最後の大会も優勝で飾り、それでテニスは満足できるだろうと思っていた。思っていたのに、負けたことで自分がどれほどテニスが好きだったのか気づかされてしまった。工業科へ行くならテニスをやめることにしていたから、ギリギリで進路を変えて教師もさぞ困っただろう。親は元々無関心だ。

「……ブン太、俺、ひとつ黙っとったことがあるんじゃ」
「何?」

また大喧嘩になったらどうしようか。アイスがある間は帰らないだろうから、それまでに丸め込めるかどうかだ。 「実は、俺」 丸井から離れたくないのも理由のひとつだ。そこまで言ってやるかどうかは決めてないが、そこは反応次第。内緒話のように顔を寄せた。

 

 

080319