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「おはようございます」
「……おはよ」

研究室の試作を借りてきた、と仁王に見せられたロボットは、人型ではあるが銀のなめらかなボティをしていた。顔がないのが少し怖い。そんなブン太が怯んだのを察してか、仁王が笑って使い方を教える。身長は仁王と同じぐらいで手が大きい。基本的には指示を出さなくても家事をこなし、食事も栄養バランスや体調を考慮して準備できるとのことだった。本当にすることがない。

「ん?ブン太なんでメイド服なん?仕事せんでええって」
「……俺、これぐらいしか持ってない」
「あ……そうか。じゃあ帰ったら買い物じゃ。明るい色が似合いそうじゃな」
「うん、うん?」
「じゃあ行ってくるけん。朝飯はあっちで食うわ。ロボットに変なとこあったら連絡しんしゃい」
「うん」

見送ろうとしたブン太より早くロボットが仁王の荷物を持った。そのまま玄関へ向かうので慌てて追いかける。

「……これだけは俺の仕事だろ?」
「ふふ、そうやね」

仁王の頬にキスを落として、笑った仁王を送り出した。このロボットは運転もできるらしいが、まだ路上許可を通ってないから居残りらしい。ブン太が見上げると朝食はどうなさいますか、と口もないのに音声がする。

「……甘いの」

かしこまりました。どこまで理解したのかわからないが、ロボットは大股で滑るように歩いて台所へ向かう。その後ろ姿を見ていると材料を確認し、食パンの残りを見つけて料理を始める。フレンチトーストのようだ。ブン太がしようと思っていたままで、ぼんやりと机から眺める。ふと思い出して台所を出た。向かう先はプランターの並ぶささやかな菜園。いずれは立派な菜園になる予定だ。水を遣りながらもぼんやりとしてしまい、少し水を遣りすぎてしまう。青い芽はまだ仁王に見せていない。報告はしたがきっと見ていないだろう。

「……何すっかなあ……」

ロボットが呼びに来たので戻って朝食にする。素直においしいと思える味で、試しにおかわり、と言ってみると手早く次を焼き上げた。

「足りませんか」
「うん、俺これぐらいは食う」
「……了解しました」

きゅる、と微かな機械音がした。ブン太は赤也や比呂士以外のロボットをほとんど知らない。人間とロボットはほとんど変わらないと思っていたが、大間違いのようだ。ブン太が朝食を済ませるとロボットはすぐに片づけ、それが終わると掃除を始めた。ブン太がするよりよっぽど早くて正確だ。

「……ねえ、お前、セックスはできんの?」

ぴたりと仕事の手を止めてロボットはブン太を向いた。顔もないのにどきりとする。襲ってきたらどうしよう、と一瞬だけ怖くなる。

「そのことに関してのデータはありません」
「……データがあればできんの?」
「今の私のボディでは不可能です」
「ふーん……邪魔して悪かった」

どうせロボットが来るなら比呂士のようににこやかな顔を持ったロボットがよかった。部屋に戻ってエプロンを外す。昨日まで使っていたアイロン台の前に座って、その向こうに仁王のシャツが落ちているのに気づいて拾った。1枚足りないと思っていたらなんてことはない、自分の見落としだ。しょうがねえな、自分を笑ってアイロンの電源を入れる。最後の仕事だ。アイロンのスチーム、軋むアイロン台。過ぎればこんなに愛しい。
しわもしみもないのを確認し、シャツは丁寧にたたんで置いておく。使っていない古いテーブルクロスを出してきてアイロン台に被せた。途端に言い表せない気持ちでいっぱいになり、膝を抱えてその場にうずくまる。ロボットに自分がやる、と言えば従うだろう。きっと仁王も誰が仕事をしたのか気づかない。しかしロボットに本分があることはよく知っている。仕事がなければ、……立ち尽くすしかない。ブン太が仕事を奪うことはできない。ブン太が任されたのは、のんびり仕事をせずに過ごすということなのだから。

震える息を吐き出し、少し落ち着いたのでロボットに見つからないように隠れて仁王の部屋に向かってシャツをしまった。既に掃除された後なのだろう、ぴんとシーツを張ったベッドに脱力する。ブン太だって精一杯やってきた。ポンコツだと言われながら、できるだけロボットのような正確さを心がけてこなすだけだった仕事は、仁王が人間にしてくれてからは意味が変わった。生きるためじゃない。意地悪な人間の鼻を明かすためでもない。ただひたすらに、誰かのために働けた。今はその仁王のために、ブン太が仕事をしないことの方がいいようだ。手持ち無沙汰でまた野菜を見に行った。ずっと眺めていてもわからないのに、朝起きると大きくなっている。もしかしたら夜中に大きくなるのかもしれない。明日も早起きしなくていいのなら、ひと晩中見ていようか。

「マスター」
「……マスターって俺?」
「はい。何かすることはありませんか?」
「そっか、仕事終わったんだ……ラジオ、ここに持ってこれる?」
「ラジオの電波なら私が受信できますが、ラジオの方がよろしいですか?」
「あ、そうなの?じゃあお前でいいよ」 「かしこまりました」

少し待つと音が流れ出した。初めてのどの辺りにスピーカーがあるのに気づく。流れる歌を口ずさみ、しばらくそうして時間を流す。しかしそれにも飽きてしまって溜息をついた。赤也も仕事中だろうから買い物もないのに行くことはできない。
そう思った矢先に窓の外に赤也が顔を出し、ぎょっとして立ち上がるとにこりと笑顔を向けられる。窓に寄ろうとしたとき赤也が手を振り上げた。次の瞬間にはその手がガラスを叩き割り、怯んだブン太は足を止める。ガラスの砕ける音でラジオが止まり、ロボットがブン太の前に立った。赤也は窓から入ってくる。

「やっぱり家にいたじゃん、みんな嘘ついたってバレバレなんだよ」
「赤也、お前」
「ああごめんねブン太さん、窓開けんの面倒でさ。すっげー会いたかったんだよ」
「赤也、」
「ねえ、そいつ何?」

赤也の目が赤く光る。こんな赤也は見たことがない。普段の無邪気さが嘘のように、笑顔にもどこか迫力が見え隠れする。どうしてだろう、今自分が恐怖を感じていることに戸惑って、――逃げ遅れた。 赤也が伸ばした手をロボットが止める。顔をしかめて見定めるようにロボットを見たあと、赤也は口端を上げるだけの笑みを作ってロボットの腕を掴み上げた。

「邪魔すんな」
「赤也!」

ブン太が止めるより早く、赤也がロボットの腕をねじあげる。そのまま叩きつけるように振り下ろし、その勢いで肩の間接が音をたてて外れた。音の大きさに驚いてブン太が数歩さがると、赤也はブン太に笑顔を向ける。

「ちょっと待ってて」

よろけたロボットの体を蹴り飛ばし、倒れたところでその頭を踏みつける。火花を散らせて動かなくなったロボットを満足そうに見遣ったあと、赤也はブン太の方に向き直って歩いてきた。

「ほんっと、手応えないやつばっか。知ってる?仁王さんなんか俺がちょっと追いかけたら階段から落ちてやんの。死なかったけど……ああ、でも仁王さんいないと誰が俺のメンテするんだろ。まあいっか、俺メンテなんかいらねーし」
「待てよ……仁王のあのけがって……」
「……ただの事故じゃん。ブン太さんには関係ないよ」

それよりさ、赤也に腕を取られて体がかたくなる。怖い。今の赤也がどこかおかしいことだけはわかる。 「俺ブン太さんに会いに来たんだ。遊びましょうよ」
「あ……赤也、お前仕事は?」
「仕事はいいんすよ!それより何します?ブン太さんがしたいことなんでもできるよ。海に行こうか?ちょっと 遠いけど俺運転できるから大丈夫。遊園地行きます?」

キスをされそうなほどに顔が近い。赤也の鋭い視線から逃れられず、赤い目に自分が写っているのがわかる。揺らがない瞳。

「俺はブン太さんと一緒だったらどこでもいいよ。おいしいもの食べに行こうか?でもどんな料理もブン太さんの手料理にはかなわないね」
「……ほんとにそう思うか?」

――隙を与えた。いくら自分が鈍くても今はわかる。それでも今の言葉は嬉しくて。優しい笑顔に変わった赤也の手が頬を撫で、額が合わせられた。

「ブン太さん、俺ブン太さんが好き」
「……赤也」
「大好き。セックスしようか?俺のペニスは立たないけど、他のことでブン太さん気持ちよくさせることはできるよ。ほんとに、大好き。ブン太さんがいてくれたら俺は何でもできる」

つないだ手に力がこもる。脳裏をよぎったさっきの光景を思い出して背筋に悪寒が走った。本能が危険だと警告する。身じろいだブン太をより強くつなぎ止める赤也の意図が読みきれない。
離して、言おうとした言葉はドアが乱暴に開けられた音に遮られた。赤也が顔を上げてドアの方を睨む。ブン太も振り返ると仁王が入ってきて、その真剣な表情はただごとではない。

「赤也!」
「仁王……」
「邪魔しないで下さいよ、次から次へとうっとうしいな」
「ブン太を離してこっちにこい」
「やだ」

ブン太を抱き締めて赤也は仁王を見る。その力の強さに冷や汗が流れた。赤也はロボットなのだ。忘れかけていた事実を思い出す。

「ねえブン太さん、どこに行く?ここにいたいなら、邪魔者消すよ」
「ちょっと待てよ、赤也、お前どうしちゃったんだよ。いい子だから言うこと……」
「聞きたくない」

ぐいと引き寄せられたと思えばキスで唇を塞がれる。生暖かい唇は柔らかい。ブン太を掴んだ腕に力がこもり、骨が軋んだ気がした。赤也を振り払おうとしたとき、ガシャン!と派手な音がして唇にかすかな電流が走る。ゆっくりと赤也が崩れ落ちた。慌てて体を支えると、その向こうに柳が立っている。スパナを手にしたまま、へこんだ赤也の足をさすって飛び出したバッテリーを取りあげた。赤也の目から光が消えている。

「ブン太!」

柳が赤也を引き取り、仁王がブン太を抱き締めた。まだ唇にしびれが残っている。何が起きたのかわからない。

「けがないか?腕も、折れとらん?」
「赤也どうしたんだよ」
「ちょっとしたエラー、暴走しよって、修理しとったんじゃけど逃げ出したんじゃ」
「ブン太、腕を」

柳が腕を取り、袖をまくって様子を見る。赤くなってはいるが折れてはいないようだ。

「ったく、ロボット破壊しよって……」
「おそらく記録カメラも壊されたな」
「とにかく身体セーブの基準だな」
「あとは回路見直しか。ボディ入れずにシュミレーションするかの」
「なあ、赤也どうなるんだよ」

ブン太の問いに仁王は明らかに怯んだ。それに嫌な予感がして仁王の腕を掴む。

「ブン太、赤也を運ぶのを手伝ってくれ」
「……柳、赤也はどうなるの」
「データを初期化して様子を見る」
「初期化ってどういうこと?」
「記憶、情報、すべてをリセットする。生まれたときの状態に戻す。覚えたことも、成長部分もすべて」
「そんな……そんなの、赤也じゃなくなるってことかよ!なんで!?仁王!」
「……一歩間違えば、ブン太がああなっとったかもしれんよ」

床に転がった無惨なロボットを見る。その姿を改めて見るとぞくりと血の気が引いた。赤也が壊したのだ。あんなに優しいロボットだったのに、どうしてしまったのだろう。

「だ……だからってそこまでしなくても、修理すればいいんじゃねえの?せっかく仕事も覚えて、いろんなことができるようになってんのに」
「スクラップよりましじゃろ。……ほんまならスクラップじゃ。俺やって簡単に壊したくない」
「このロボットに助けられたかもな。ブン太がけがをしていれば赤也はスクラップだ」
「なんで!?」
「ロボットは人を傷つけてはいけないという決まりがある。それに背いたものは許されない。それはもう、ロボットのすることではないからだ」
「だって、赤也は、……俺の友達なのに」
「……ブン太、赤也は道具だ」

柳の声がひどく寂しい。柳を見上げると寂しげに笑っている。きっと、仕方のないことなのだ。戸籍のないブン太が何もできないように、人間の決めた決まりに従わなければいけないのだろう。もう動く気配のない赤也を受け取って抱き締めてやる。あたたかさもなくなったかたい体は重い。よくわからないが、自分のせいのような気がした。赤也が自分を好きだと言ったからかもしれない。守ってやれなかった小さな友人は、また友達になれるだろうか。

「どこに運べばいいの」

 

 

*

 

 

「おっちゃんは、知ってたの?」
「そりゃあな、おっちゃんはあいつの親父だからよ。嬉しそうに報告してきてたなあ、今日はどうした、こう言われたってよ」

店先が寂しく見えるのはどうしてだろう、赤也がいないだけなのに。新しいロボットがやってくるまで、1日だけメイド復帰だ。買い物はなかったが顔を出せば、店主はいつものように店先にいた。煙草をふかしてブン太に笑いかける。

「ブン太さんがブン太さんがってよ、妬けたぜ」
「……やっぱり俺のせいなんだ。よくわかんないけど、俺がなんかしたみたい」
「違うんじゃねえかと思うがな……あいつはバカだけど、やっぱり賢い子だったのよ。教えてもないのに恋するなんざ、人間のすることさ。お陰でいい夢見れたよ」
「夢?」
「……うちのガキはあれぐらいで死んでんだ。頭の中がな。まあ生きてりゃ姿もあれぐらいか、おんなじようなくるくるパーマだったよ」
「そうなの?」
「このご時世に嘘みたいな話だ。病気でよ、あっさりとな。……恋するロボットなんざ、イカれてるってわかってたんだ。それでも、俺ァ自分のガキが幸せになりゃいいと、……ばかな夢を見たもんだ」

ふう、と噴き出された煙草の煙は細くたなびいて、人混みの喧騒に紛れていく。 昔幸村に怒られた。ロボットは夢を見ない。夢の話をしてはいけない。どんな夢でも、見てはいけないのだと。赤也は夢を見ただろうか。

「何、今週には戻ってくるってよ。また一から教えてやらねえとな」
「……おっちゃんは、寂しくない?」
「だから言ったろ?――夢だったんだよ」

そう笑う横顔に年を感じさせた。ブン太も年を重ねれば、もっといろんな感情がかるのだろうか。まだ少しわからないことが多すぎる。赤也の方がよっぽど人間らしかったのかもしれない。
買い物を済ませて家に戻ると、柳が来ているらしい。お茶を入れようと買ってきたものを片づけて部屋に向かう。真っ先に目についたのが赤也の頭で、入り口でたじろいでいるとそばの柳がブン太に気づく。名前を呼ばれて緊張を解くと、首だけの赤也がこっちを見た。

「ブン太さん!」
「……まだ?」
「ああ。多少データを取らせてもらわないとな。これなら暴れようがないだろう」
「そうなんだ……おっちゃん、待ってたぜ」
「はは……どんな顔するんだろ」

赤也の笑顔に悲しくなる。泣きそうなブン太に気づいたのか、赤也が慌てて名前を呼んだ。いつもの赤也に戻っているようだ。

「……柳、赤也は、やっぱりこのままじゃだめなのか?」
「修理箇所がわからないからな」
「ブン太さんいいんすよ、俺だってまたいつぶっとぶかわからずに仕事すんのやだもん。ブン太さんやおっちゃん傷つけたくないからさ。……ごめんね、怖がらせて」
「赤也……」
「ブン太お帰り」

部屋の奥から出てきた仁王がブン太を迎えた。紙の束を柳に預けてブン太に笑いかける。

「すまんな。明日にはロボット来るけん」
「あ、うん……」
「ロボットってなんすか?」
「お前が壊したやつの代わりじゃ。ったく、俺の作ったロボットやからって弁償じゃ」
「そういえば、なぜ急にロボットを置いたんだ?」
「家事。ブン太にさせると悪いじゃろ」
「……ブン太、家事はそんなに大変だったか?」
「……ううん」
「昨日は何をしていたんだ?」
「え……赤也がくるまでは、何も。……することなかったし」

仁王が困らないかと思いながらも柳に素直に答えた。家事なら幸村の家にいたときよりよほど楽をしている。仁王は自分のために何もしなくていいと言ってくれたのか。そうだとしたら。ばかじゃないの、赤也の言葉に仁王が頭を叩いた。

「壊すぞ」
「ばか、あんた絶対ばか!あんたブン太さんのことなんもわかってないんじゃねーか、うっわーマジでブン太さん任せたくねえ」
「何と言うか……人間観察に関する経験値は圧倒的に赤也の勝ちだな」
「な、何じゃそろって!」
「まあ俺も少々言葉足らずだったかもしれん。俺はブン太から仕事を奪えとは言っていない」
「は?」
「人間にしてやれというのは、余暇の使い方を教えろというつもりで言ったんだがな。ブン太、仁王にわがままを言ってみろ」
「わがまま?」
「ブン太がしたいことを言ってやれ」
「……なあ仁王、俺が仕事するんじゃだめ?メイドじゃないなら邪魔になるのかもしれないけど、俺、お前のために働きたい」
「んな……」

仁王が溜息をついた。目をかたくつぶって、やはり言ってはいけなかったのかと不安になる。しかしすぐに仁王に抱き締められて、腕の中で仁王を見上げた。

「俺はまたブン太につらい思いさせたんじゃな」
「つらいっていうか、することなくて……」
「はぁ……すまんかった。そうやな、ブン太が楽しんで仕事しとるんは、わかっとったはずやのに」
「……じゃあ」
「これからも俺の世話したって」
「……うん!」
「さて、ラブシーンはそれぐらいにしてもらおうか。そろそろ赤也に意識をもどしてもらおう」
「あ……」
「……ブン太は出とり」

仁王の手から離れてブン太は赤也の前に立つ。両手を頬に添えるとあたたかい。機械が働いてる熱だと以前聞いたことがある。だからこれは、あたたかいだけの道具だ。

「……ごめんねブン太さん」
「……またな」
「へへ……またあんたのこと好きになったら、面白いのに」
「俺も赤也が好きだよ」
「……あんたもちょっと、ばかだな。最悪だよ」

 

 

*

 

 

柳が帰っていったようだ。台所にいて見送れなかったが、赤也はどうなったのだろう。仁王が入ってきて、心なしか疲れた顔をしていた。

「赤也は?」
「あとはボディだけやけん、柳んち行った」
「そっか……」

仁王に引き寄せられてそのまますがりつく。何と言い表せばいいのかわからない気持ちが胸を締めつけ、泣きそうな吐息に気づいた仁王に顔を覗きこまれたので笑って見せた。

「大丈夫」
「ほんまは前からちょっとデータおかしかったんよ。直すほどでもないかと思っとったんやけど、あれほど暴走するとは思わんかった。結局ブン太も傷つけて」
「仁王は俺のためにそうしてくれたんだろ?ありがと」
「ほんま散々じゃ……」
「……仁王は行きたいところ、ない?」
「……そうやね、ブン太をいろんなところに連れてってやらんとな」

少し肌寒い夜で、仁王に抱き締めてもらって眠りについた。明日は赤也に会いに行こうと約束をして。

「……赤也は夢を見るのかな」

うとうとしているブン太を撫でるうちに規則正しい寝息が聞こえてくる。柔らかい頬、なめらかな髪。柳だって人は作れない。呼吸に合わせて上下する胸を撫で、あたたかい首筋に血の流れを確認する。

「……赤也は夢を見ないよ」

夜眠るのはエネルギー消費を抑えるためだ。――希望は抱くのかもしれない。人のように生きたいと。次の赤也が同じ道を辿らぬよう、神にでもすがりたい気持ちで仁王の夜は更けていく。

 

 

081017