※やってることはニオブンでも最終的にモブとくっつきます。丸井に女装願望あり。

 

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俺の夢はスコートをはくことだ、と、俺はどこかで呟いていたのだろうか。その日仁王が取り出したのはどこから入手したのかわからない女子テニス部のユニフォーム、それも今のようなハーフパンツ型になる前の。ベッドの端でガッチガチに緊張した俺を笑うように、仁王はそばにそれを投げてくる。――恐怖と、興奮、胸の鼓動が異常に早い。いつバレたんだろう。ずっと胸の奥底にしまっていた、こんな思い。
部活を引退してから何となく時間を持て余し、時々誰か家でゲームをしたりと過ごしていた。メンバーはその時どきで、今日は仁王と丸井のふたり、このとき他の誰かがもうひとりでもいればこんなことにはならなかったのだろう。

「信じられん。あいつら変態じゃ」
「な……なんだよこれ」
「罰ゲーム。これ着て自分撮り、って俺の女装なんか見て楽しいかっつの」

無視無視、顔をしかめて仁王はゲームを出してくる。自分のそばに置かれたままの異物に困惑しながら、差し出されたコントローラーを受け取った。様子のおかしい丸井に気づき、何、と顔を覗き込んでくる。

「い……いや、どっからこんなもん手に入れたんだろうな」
「太田のねーちゃんテニス部だったじゃろ。……代わりに丸井が着るか?」
「はっ!?」
「そしたらあいつらも騒がんじゃろ」
「ふ……ふざけんなよ!誰が着るかッ」
「ブ・ン・太・ちゃん♪」
「ばっ、か!」

にやりと笑う仁王に嫌な予感がする前に、一瞬でベッドに押しつけられる。頭ごと上半身を抱え込まれ、抜け出そうと暴れるのにベルトに手をかけられて引き抜かれた。

「やめろっ、バカ!」
「かーわいい」
「やめろ!」
「じっとしときんしゃい、すぐ済むけん」
「一生残るトラウマだ!」

抵抗する太ももを叩かれ、更に急所を乱暴に掴まれる。一瞬にして硬直した丸井にいい子、と囁き、仁王はずるりと下半身を露わにした。信じられない。自分が楽しむためなら手段を選ばないこの男に関して完全に油断していた。チームメイトだと甘く見ていた。あの柳生に自分のふりをさせた男、だ。――もしバレたら、自分のこの心の内が仁王にバレたら、終わりだ。
似合うんじゃない?演技がかってスコートをつまみ上げ、足あげて、とまるでさっきの様子が嘘のように優しい声で仁王は丸井に笑いかける。流されてはいけない。そう思うのに、ベッドに倒れ込んだ丸井の足を持ち上げて仁王がそれを器用にはかせていく。顔をそらして息を殺した。仁王の笑い声が耳につく。柔らかい布の感触が腿を滑って鳥肌が立った。

「……なんで涙目なん?可愛いけど」
「ッ、」

ちょっと筋肉質やの、仁王の手が太ももを撫で、思わずそっちを見てしまう。短いスカートから出るのは自分の足、

「顔真っ赤」
「う、うるせえ」

身動きをすると白いスコートが腿を滑る。――いつからなのかはわからない。柔らかいピンクや甘いレースに心を惹かれ出してから、どんな思いで自分を殺してきたことか。なのに今こんなにもあっさりと、――仁王と目が合う。自分はどんな顔をしているのだろう。仁王の表情も妙に真剣だ。唇を噛んで精一杯仁王を睨む。

「ふ……ふざけるなら帰るッ!」
「誰が逃がすか!」

馬乗りで押さえつけられ、その恐怖に背筋が震えた。首に添えられた手が軽く力を込める。仁王の本質を垣間見た。

「もうちっと大人しくしときんしゃい、すぐ終わるぜよ」
「仁王ッ……」

ぐいとネクタイが引かれて外される。シャツも脱がされて、思案した仁王に起きろと言われて素直に体を起こした。今の仁王に逆らうとどうなるかわからない。ユニフォームを被せられて、顔を上げると仁王は凶悪な顔で笑っている。一瞬思い出したのは充血モードの切原。最悪だ。ちゃんと着て、声は優しいのに抵抗を許さない。奥歯を噛んで袖を通すとその間仁王が離れる。
ベッドの脇に何かが置かれて顔を上げると姿見だった。そこに映るのは見たことのない自分、ずっと、憧れていた。スカートの端を伸ばすように手を添えて、思わず状況も忘れて鏡に見入る。次の瞬間肩を掴まれ乱暴に引き倒された。枕に顔を押さえつけられ、どうにか逃れて振り返るとさっき同様丸井に跨って仁王が笑っている。

「嬉しそうやの」
「!」
「丸井が変態やったとは知らんかったぜよ」
「ち……違う」
「安心せい、誰にも言わん。ま、ただでとはいかんけど」
「仁王ッ」
「オカマなん?」
「違う!」
「顔赤いぜ」
「ッ――」

仁王の手が頬を滑る。ゆっくり首筋に落ちてまた掴まれるかと怯えた。その手は平らな胸に落ち、丸井の反応を見るように腹を撫でる。

「教えんしゃい。他にしたいことがあるなら手伝っちゃるけん」
「なんでもない!」
「ふぅん」
「イッ!」

脇腹をつねられて体が跳ねる。丸井を見下ろす仁王の表情は変わらない。言うまで帰さん、囁く声に鳥肌が立つ。――最悪だ。堪えきれずに溢れ出した涙が枕を濡らした。同時に、仁王の甘い言葉に揺らいだ自分がいる。したいことがあるなら、なんて。

「泣いても、無駄」
「――俺は」

ふっと仁王が顔を上げ、壁の時計を見上げる。そうかと思えば丸井から降り、さっさとユニフォームを脱がせて制服を投げてくる。困惑する丸井に早く着ろとだけ言い捨てて、仁王はユニフォームを布団の下に押し込んだ。のろのろと服を着た丸井のネクタイを仁王がさっと締めたとき、部屋のドアが開けられた。顔を出したのは何度か見たことがある仁王の母親。

「おかえり――あら」
「勝手に入ってくんな、クソババァ」
「あんた何泣かせてんの!」
「まさかこんなもんで泣くとは思わんかったんじゃ」

どこから取り出したのか、仁王が傾けるのはホラー映画のDVD。否と言わせない笑顔を向けられ。頬を拭いながらうつむく。――これはまだ始まりだ。後に迫る恐怖に背筋が震えた。

 

 

*

 

 

「おはよう」
「あっ……」

後ろからぶつかるようにやってきた仁王が体に隠して丸井のベルトを掴んだ。すれ違うクラスメイトが仲いいなとからかってくる。ラブラブやけん、と丸井の手を取ってそれに返した仁王を横目で見る。別れ際に胸のポケットに紙を押し込まれ、妙な笑みを残された。嫌な予感がして教室へ行く前にトイレの個室でそれを取り出してみる。一目見た瞬間に握り潰した。
――あの一瞬で?それは荒い画像ではあったが、昨日のあの姿で鏡に見入る丸井の姿。いつの間に撮られたのかわからない。顔までははっきりとわからないが、この髪の色を見れば誰だってこれが丸井だと気づくだろう。――終わりだ。トイレの壁に寄りかかり、平静を装うようにセットしてきた髪を、行き場のない思いに任せてかき乱す。涙だけは必死でこらえて、頭を働かせても逃げ道は見つからない。これが悪夢ならどんなにいいか。深呼吸を繰り返し、どうにか気を落ち着けてドアを開けた。――視界に飛び込んだ仁王の姿に、夢ではないことを再確認する。

「帰りにうち来んしゃい。昨日の続きじゃ、今日は邪魔が入らんようにしてきたぜよ」
「仁王……」
「あ、本鈴鳴ったぜ」

ぽんと丸井の腰を叩き、鏡を見て髪を直した仁王は先にトイレを出ていく。うつむいてぐっと拳を握り、ゆっくり呼吸を繰り返す。気を抜けば息が乱れてしまう。――落ち着いて、授業に出て、放課後までいつも通りに。これからどうなるかなんて考えたくもなかった。

 

 

*

 

 

ドアを開けるとしかめっ面の丸井が立っている。ただのしかめっ面じゃない、しかめっ面らしい表情を繕っているだけで、思わず笑いが込み上げる。演出も兼ねて口角を上げたまま、いらっしゃい、と丸井を招き入れた。警戒心を隠さずに丸井が玄関に踏み込んで、かたく握った拳を見ながらドアを閉めて鍵をかけた。その音にわずかに反応した丸井はもうおもちゃにしか見えない。これから一枚ずつ、もうないも同然の仮面を引き剥がす。甘い言葉を並べながら乱暴に。普段強気なその仮面の下に隠しているもの次第では、丸井は一生自分のものだ。動かない丸井の手を引いて部屋へ向かう。

「昨日は邪魔入ったからの、その前からやろうか?」

丸井を覗き込むとベッドに視線を落とす。昨日の丸井の姿は仁王を楽しませた。あんな従順な丸井は見たことがない。何かがキーだったはずだ。友人の姉、か、それともマゾヒストか。不安を押し隠して仁王を睨む丸井は何も言わずに唇を噛んでいる。――大人しく来たと言うことは、やはりあの写真で正解だ。

「また着るか?」
「!」

かかった。完全に堕ちた瞳を見て笑う。されるがままの丸井をベッドに座らせ、自分はベッドの下からスコートを引っ張り出してほこりを払った。

「――なあ、丸井はオカマなん?」
「ち……違う」
「じゃあ何?……着たいんじゃろ?」
「お、俺は……違う。俺は、服が、着たいだけ」
「スカートとか?」
「……別に、女になりたいとか、そういうわけじゃない」
「ふうん。……どうじゃった?昨日コレ着てよう」

丸井の膝にスコートを投げると体を強ばらせた。その隣に座って手首を掴む。

「興奮すんの?」
「そんなんじゃない!着てみたいと、思うだけ……」
「また泣く」

完全に急所だったようだ。空いている方の手で涙を拭う丸井を見ながらも笑いが抑えられない。外見の割には男らしい性格だと思っていたが、それは作り上げられたものだったようだ。丸井の言うことが本当なのだろうということは様子でわかる。ただ女物の服を着たいだけ、どんな素振りからそれがバレるかわからないからそんな素振りも見せないように。
――ある意味で自分と近い。手首を引いて引き寄せて、濡れた頬にキスを落とす。ぎょっとして顔を上げた丸井ににっこりと笑ってやった。今まで向けていたようなものじゃない、作り笑顔ではあるけれど見え方には自信がある。

「取引ができると思わん?」
「は……?」
「丸井は女の服が着たいだけ。じゃあ俺が協力しちゃる。代わりに丸井も俺のいうこと聞いて」
「……どんなこと、」

手首を持ち上げて、そこに唇を押し当てながら丸井を見る。揺らいでいる。バカな奴、チームメイトを嘲笑い、ゆっくり迫って彼をベッドに倒した。

「俺は男としたいだけ」
「……は?」
「男とセックスがしたい。女の体なんか気持ち悪うてかなわん。――貸して」
「仁王ッ」
「逃がさんよ?大人しくしてたら優しくしちゃるけん」

丸井のネクタイを引き抜いて、硬直しているのを笑いながらベルトを外す。色々考えているのだろう、困惑した表情で仁王を見上げる丸井に嗜虐心をあおられた。考えたって無駄なこと、丸井にはこれしか選べない。手早く下着も一緒にスラックスを脱がせてしまうと、わずかに眉をひそめはしたが抵抗はなかった。諦めたか。

「いい子じゃの」

柔らかい丸井の性器を撫でてやると両腕で顔を覆い隠した。残念に思いながらも、――どうせ今日で終わりではない。今日ぐらいは許してやろうと放っておき、準備しておいたローションを手に垂らした。足を持ち上げて、性器を撫でた後いきなり後ろへ回す。小さな悲鳴に気をよくしながら肌の間に指を押し込んだ。

「仁王ッ」
「いい子にしてろよ」

 

 

*

 

 

乱れた息がなかなか整わず、丸井はぐったりとベッドに倒れ込んでいた。キスを拒まれ、それなら別に丸井が好きなわけではないから構わない。汗で張り付いた前髪を剥がしてやるとぼんやりとした目で見上げてきた。そのまま頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。手加減をしなかったから痛がりはしたが、それでも丸井からの明確な抵抗はなかった。
丸井が吐き出した精液は腹の上で熱を失っている。腿を撫でてさっきまで熱を穿っていた場所へ指を運び、そこへ指を押し込むと高い声が小さく漏れた。まだ気持ちいい?聞いてやると首を振る。指を増やして狭いそこを広げると、仁王の放った欲望の果てがどろりと流れた。足が震えたのを見て更に掻き出す。そうして汚れた指先を丸井の口に押し込んだ。顎を掴んで抵抗を押さえ込み、侵入させた指で舌に爪を立てる。

「約束。俺は誰にも言わないからお前も誰にも言わない。お前からはやめるって言わない。恋人扱いはしない。俺が呼んだらついてこい。誰かにバレたら終わり」
「……わかった」
「このこと以外に手ェ出す気もないけん、好きに彼女も作って」
「……作れるかよ」
「ま、ファーストキスはとっときんしゃい。風呂入る?」
「いや……なんか、ダルい」
「泊まってってもいいぜよ」
「うーん……」
「俺シャワー浴びてくる」

仁王が部屋を出ていき、丸井は溜息をついた。色々なところが痛い。やたらと噛まれたり引っかかれたりと生傷も多いが、普段使わない筋肉も動かしたのだろう、体が軋む。試合中よりも更に凶悪な、仁王のあんな表情を初めて見た。仁王の方が変態じゃないか、……男に感じたら自分も変態なのだろうか。ティッシュを探して汚れ拭い、重い体を起こして下着をつける。
ふと見た視線の先、行為で乱れた布団の中にスコートが紛れている。それを広げてみて、ベッドの下から上着も取り出した。しばらく思いを巡らせ、どうせここまで来たなら逃げられない。緊張しながらユニフォームに手を通し、さっとスコートも身につける。ベッドに座り込んで裾を弄び、立ち上がって鏡の前に移動した。見たことのない、正確には昨日一瞬見た自分の姿にどきどきする。確かに自分の姿であるのに別人のようで、こんな自分にだってなれるのだとスカートの裾を引っ張った。思っていたよりもずっと短い。少し動くと男物の下着が覗く。
ドアの開く音がして、慌てた瞬間には鏡に写った仁王と目が合った。きょとんと目を丸くした後、すっとその目を細めて笑う。狭い部屋を数歩で横切り、丸井のそばに立って腰を抱いた。髪から水を滴らせたままの仁王は上半身は裸のままで、中学生には見えない雰囲気を持っている。

「よう似合うぜ、そこらの女よりよっぽど可愛い」
「……俺、女に見える?」
「トランクスさえ見えなきゃな」
「!」

さっと下着を下げられたかと思うとすぐに性器に手が伸びた。硬直する丸井の後ろで、仁王はふうん、と気のない声を出す。

「ほんとに興奮せんのじゃな」
「触るなッ……」
「いいじゃろ、気持ちよくなるんじゃ」
「やめろ、汚れるッ」
「……へえ」

鏡の中の仁王が歪んだ。否、笑った。ぞくっと鳥肌が立った一瞬に強く握られる。確実に狙いを持って指が動いた。

「仁王ッ!」
「汚すなよ」

首筋にかみつかれると抵抗ができなくなった。揉みしだかれて次第に熱がよみがえり、腰に回った仁王の腕にすがりつくように爪を立てる。痛いと払われてその場に崩れ落ちた。息を吐きながら仁王を見上げると、意地の悪い笑みを浮かべて丸井を見下ろしている。

「ほら、立っとおぜ」
「あッ!」

スコートの上から中心を踏まれて体が跳ねる。声を上げた一瞬の、鏡に写る自分を見て目をそらした。仁王が気づいて笑いを漏らす。

「変態」
「……お前に言われたくねえ」
「知ってる」

しゃがみ込んだ仁王が立ち上がりかけた丸井の性器を握った。まだすんの、拒否のつもりだったのに、期待するような声になって嫌気がさす。帰らないと、言い訳のように続けると、泊まらんの、と驚いたような声がした。

床に押しつけられてイかされて突っ込まれて吐き出されて、行為が終わってから遅い連絡を入れた。汚されたユニフォームを見ながら母親の怒る声に相槌を打つ。
……一瞬だった。この男は一瞬で、自分の憧れを引き倒して地面に叩きつけた。にやにや笑って丸井を見ている仁王を見て、結局自分もこいつと対して変わらない変態なのだろうと思う。また丸井を置いて2度目のシャワーを浴びてきた仁王は髪までほとんど乾いている。

「今度デートしようか。神奈川出てもええな、東京とか人が多い方がいい。部活引退してから暇やしの。平日はどっこも空いとるし」
「……学校どうすんだよ」
「卒業できりゃ」
「俺を巻き込むな」
「……俺は別にかまわんよ?誰かに制服でも借りてきちゃる」
「そ、その話かよ!」
「言ったろ、手伝っちゃるって。姉貴の服借りてきゃいい、欲しいのがあるなら買ってやる。最後に俺が脱がして突っ込んでフィニッシュ!」

パチンと指を鳴らして仁王はこっちを見た。最低、口に出しても仁王は笑うだけだ。中学生らしい狭い部屋、勉強道具以外の物で散らかった勉強机も、無造作に椅子に投げられた制服も、今の彼には似合わない。見た目は派手だが部活のある頃は自分と同じ青春を過ごしたのが嘘のようだ。

「……詐欺師ったって程度があるよなあ」
「……ブンちゃん、こっちいらっしゃい」
「嫌だ」
「それ脱いだら洗濯機放り込んどいて。寝るんやったら適当にその辺の着て」
「……腹減った」
「スカートはいて飯食いに行くか?」
「ざけんな」

しゃーないのう、立ち上がる仁王の裸の肩を色の抜けた髪が滑る。どうも服を着ないのは単に習慣らしい。妙に気になって目で追えば、えっち、と冷やかしの声が飛んでくる。

「丸井、俺に惚れたらすぐ言えよ。ボロ雑巾みたいに捨ててやる」
「こんな変態さっさと死ねばいいのに」

 

 

 

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070916