※何故か屋上でいたすのがお好きなようです。

 

1

 

「仁王クン、クリスマス空いてる?」
「……は?何の誘い?」
「身を守るな」

両腕で自分を抱きしめる仁王をクラスメイトの西田は冷たい目で見た。 ノリの悪い友人のリアクションにあっさり諦め、仁王はココアの缶を手のひらで転がしながら、何、と聞き直す。

「終業式じゃん、その後カラオケ行かねーかって。文化祭の打ち上げ禁止にされてできなかったしよ、クリスマスパーティ。一応全員に声かけるって」
「それ幹事誰なん?」
「井上さん」
「あー、好きそうやな。クリスマスねえ……」
「お前彼女いたっけ?」
「や、おらんよ」

手の中のココアを意識しながら答える。教室を見回してみるが、渡したい人は見当たらない。なら来いよ、と誘う友人に上の空で相槌を打つ。――丸井の好きそうなイベントだ。缶をもてあそんで考える。

「わかった、一応空けとくけん」
「よっし!」
「何?」
「今んとこ女子が多くてよ」
「あー、やろな。また詳しく決まったら教えて」
「わかった」
「あっ仁王!買ってきたか!?」

後ろから飛んできた声に苦笑して振り返る。トイレに行ってきたのだろう、濡れた手を振りながら駆け寄ってきた丸井に缶を差し出す。その手のままそれを受け取り、笑って仁王を見上げてくる表情にくらくらする。かわいい。どんな女子よりもどんな小動物よりも、丸井よりかわいいものはないと思う。誰もいなければこのまま抱きしめてキスをしたいとさえ思うほどに愛しい。

「何それ」
「パシリにされたんじゃ」
「ああ、だよな。仁王がココアって」
「……俺そんなに甘いもん嫌いそう?」
「何となくな」
「ふうん……ま、モノによっちゃ大好きなんじゃけど」

ちらり、と丸井を見るが、さっさとココアを開けていて仁王どころではないようだ。かわいいなあ、口をついて出そうになる。

「丸井は?クリスマス開いてる?」
「ん?あー、カラオケだろ、聞いた。俺パス。デート」
「え」

思わず声が出た仁王を不思議そうに丸井が見上げてきた。いつそういうことになったのだろう。クリスマスの話などケーキの話題しか聞いていない。

「丸井って彼女いたっけ?」
「何?知らねーの?」
「嘘ッ、写メは!?」
「誰がお前になんか見せるかよ!減る!」
「えーマジでー?丸井はいねーと思ってたのに……」
「何でだよ!こんな男前捕まえて!」
「だって仁王にもいねーのにさー」
「え?」

丸井の目が再び仁王に向いた。怒っているわけではなく、ただ単純にきょとんとした驚いた表情だ。――これは、どうしたものか。頭を働かせてみるが少なからず動揺しているのだろう、状況も対策も整理できない。先に理解できたのは丸井のようで、キッ、と一瞬でしかめっ面になる。

「まーお前らは寂しく男同士でデュエットでもしてれば?」

ああ、怒った。額に手を当てて嘆く仁王に西田が不思議そうな顔をする。ちょっと話があるんだ、と丸いが仁王の腕を掴み、さっさと早足で歩き出した。大人しくついていきながら考える。

――一般的に男同士の恋愛というものが認められにくいということは十分わかっている。それでも思いが通じてしまえばもう離れられない。他人の目を盗んで抱き合って口つけを交わす。そんなつき合いだから、仁王は誰にも言っていない。ささいなことからばれるのも恐れて誰かとつき合っているとも言わないことにしている。自分はいい、丸井が傷つくのが怖い。
しかし丸井は違ったようだ。今まで全く考えたこともなかったが、丸井は彼女がいる、ということにしていたらしい。ココアを飲みきって缶を足元に置き、丸井はようやく腕を放して仁王を振り返る。

「……お前、クリスマス行くわけ」
「ブン太も行くかと思って」
「俺そんなこと一言も言ってねーだろ!つーか何、お前誰ともつき合ってないとか、俺何なの?」
「ブン太」
「お前は俺とつき合ってるんじゃねーのかよ!」
「そうじゃ」
「何でそんなこと言うんだよッ……!」
「ブン」

誰かくるかもしれない。自分のこういうところがだめなのだろう、妙に冷静な頭が考える。うつむいて拳を震わせ、泣き出しそうな丸井を前に抱きしめることもできない。ほんの少しのことでこんなことになるのだな、冷たい風を感じながら考える。チャイムが聞こえた。もう誰も来ないだろうか。自分と違って丸井の感情の起伏は激しい。見ていて面白かった。さっきまで笑っていたかと思えばすぐに怒り、今は泣きそうになっている。ごめん、と謝るのは簡単だけれど。黙って丸井を見ていると、耐えられなくなったのは丸井が先だった。

「……お前、遊びのつもりだったのかよ」
「ちゃうって……どっからばれるかわからんじゃろ、やけん」
「フリーって言ってたら女寄ってくるばっかだろ!お前、俺なんかつなぎなんじゃねーの」
「あのなあ……」

泣き出してしまいそうな丸井の様子に溜息をついてしまう。それがまた丸井をあおったようで、遂に手が出た。油断しきっていたところに頬に一発、力を込めたビンタが決まる。

「……ブン太」
「お前いっつもそーだよな!そうやってかっこつけて、俺ばっか、みたいじゃねーか!」
「俺は殴られるようなことした覚えはないぜよ」

頭に血が上っているのがわかる。夢を見ているように客観的に自分を見ている一方で、それを押さえられない。睨む仁王に怯んだ様子を見せたが、丸井はすぐに鋭い視線を返してきた。グランドから場違いに切原の声が聞こえてくる。体育なのだろう、サッカーをやっていると言っていたか。冬の風にさらされながらにらみ合い、そのうち丸井がゆっくりうつむく。セーターの袖で涙を拭うのが見えた。それでも自分が悪いとは思えないし、問題は別として今は先に手を出した丸井が謝るのが先だ。感情が高ぶっておさえられなくなったのか、丸井がその場にしゃがみこんだ。肩が震えている。――どうしてこうなるのだろう、と思うたび、男を好きになった自分を恨む。確かに今は、こうやっていさかいがあっても離れられないほどに丸井が愛しい。悪い癖だとは思うがこんなとき無性に抱きたくなる。丸井がしたくないのを知っていながら、その場にだって押し倒したい。

「何でそんな嘘つくんだよっ……!」
「……めんどいじゃろ、見せろとか追求されたら」
「何がペテン師だよ、俺がいないことにすんなよ!」
「じゃあ何や、かわいい子や、って言っといたらええんか?告白されたんじゃ、キスも済ました、クリスマスにデートするんじゃ、って嘘ついて、それでブン太は満足するんか」
「……それでも俺は嫌なんだよ!お前が誰かのものになる可能性だって!」
「……ハッ」

鼻で笑って丸井の腕を掴む。足元の缶が転がった音が妙に響いた。そのまま貯水タンクの影まで引っ張っていき、壁に押しつける。涙で濡れた瞳に写るのは拒絶。何をしようとしているのかなどわかっているのだろう。

「いやだ」
「黙りんしゃい」
「やだ」
「嫌がっとらんくせに」

あごを掴んで乱暴に口づける。噛みつくように荒く、押し返そうとする両手を片手でまとめて逃がさない。逃がしてやらない。こんな姿を他の誰にも見せたくないと強く思う。独占欲が強いのは自分だって同じだ、きっと丸井よりも強い。

「やめろ!」
「クリスマスふたりでおりたかったん?」
「ッ……カラオケでも何でも行ってこいよ!」
「かわええの、あんだけ避けられてた頃が懐かしいわ。デートしようか、夜景でも見に行く?おいしいもん食べに行こうか?それとも部屋で抱き合っとくとか?」
「仁王!」
「やかましい」

再び口を塞いで黙らせる。押さえつけたまま舌を差し込みからめとり、力の抜けていく丸井の体を支えてそのまま深く口づける。唾液を流し込んで、首に触れながら飲み込まれるのを確認する。鼻から抜ける丸井の声を聞きながら口角を上げて、ゆっくり離れるとその場に座り込んでむせた。好きだと言ったのは仁王からだ。時間をかけて気持ちを向かせて自分のものにした。逃がす気も逃げられる気もしない。

「ブン太は女に俺が取られると思っとるん?」
「……仁王」
「なあ」

崩れ落ちた丸井のそばにしゃがみこんで覗き込む。涙で濡れた瞳に見つめ返された。どうしようもなくあおられる。

「信じられん?」
「違う。……だって、俺、男だから。男だからクリスマスも一緒にいられねーんだろ?」
「一緒がいいん?」
「……俺は、いつだって」
「……かわええの」

今度のキスに抵抗はない。ついばむように軽いキスを繰り返すと切なげに名前を呼ばれる。それに誘われるまま唇を舐めた。開いた唇から赤い舌が出てきて絡む。両手が仁王の頭を抱いて引き寄せて抱き合った。

「あ」
「ブン太?」
「……好き」
「うん」
「ニオ」
「何?」

笑いかけてやると顔を赤くしてうつむいた。腕の力は緩まない。したくなった?囁くと更に頭を下げて、仁王は笑ってつむじにキスを落とした。

「寒くない?」
「……ここで?」
「嫌?」
「……じゃあ、口でしてやる」

珍しいこともあると思えば、今日は部活に顔を出す予定があると思い出した。耳まで赤くなった丸井の頬を撫でるとびくりと体を震わせる。額に唇を押し当てた。

「ど、う、……すんだよ……」
「ほんまにしてくれんの?」
「何度も言わすなッ」
「じゃあして」

ベルトを外して丸井を見る。こくりと喉を鳴らし、ズボンに手をかける丸井を黙って見た。仁王の足の間に納まり、冷たい手が下着の舌のまだ柔らかいものに直接触れる。軽く息が吐き出され、丸井は体を屈めた。

「えっち」
「……不満かよ」
「はよ、して」

優しく髪を撫でてやると文句を言いかけた口が閉じられる。不満げなその唇を指先でなぞり、薄く開いた唇に差し込んだ。侵入させ触れた舌から逃げるように引き抜いて笑う。

「ブンちゃんがしゃぶるのはこっちじゃない」
「……わかってるよ!」

肩に力が入っている様子がかわいい。愛おしい。晒された世紀に丸井の息がかかり、ちゅ、と唇が触れる。ためらいがちに熱い口内に誘い込まれゆっくりと舌が這った。

「……ちゃんとイかせてな?」
「わ……わかってるよ」

いつもどうしてだか擦れ違う。思うようにいかないものだな、足の間で揺れる赤い髪を撫でて、ひと房手にして指先でもてあそぶ。丸井の手の中で確実に熱を集めていく自分を感じながら、クリスマスの件は後で断っておくことに決めた。こんな姿を見せられてはひとりにさせられない。何かびっくりするようなことをしてやりたい、それから抱き合って夜を過ごせば、きっと丸井の満足するような日になるのだろう。
苦手なくせに自ら言ってくれた丸井の気持ちが嬉しい。一生懸命に気持ちよくさせようとしてくれるのがわかって、うまくはないが次第に熱が張り詰めていく。もう丸いにはグランドの喧騒は聞こえていないのだろう。髪を撫でた手を滑らし、耳を掠めて襟の中に手を入れる。外気に冷やされて冷たくなったその手に驚いた丸井の体がはねる。軽くはが当たって仁王は顔をしかめた。

「イタイ」
「邪魔すんなよ!……気持ちよくねーの」

真っ赤な顔がふてくされて仁王を見る。寒い中だというのに仁王の熱は収まりそうにない。

「な、ブン太、やっぱり入れたい」
「……やだよ、部活あんのに」
「一回だけ。ブン太は?したくない?」
「俺は……」

手を添えたままのものに丸井が視線を落とす。それに気づいた仁王に見咎められるとでも思ったか、慌てて顔を背けた。

「……どーせ、俺のフェラじゃイけねーんだろ」
「だってブンちゃんへたなんじゃ。練習してな」
「うまくてたまるかこんなこと」
「何でもできるブンちゃんやのにねえ」
「こんなことうまくても嬉しくねーよ……」
「舌のお口は天才的なんじゃけど」
「だから、そんなこと誉められても嬉しくねー」
「ブン太」
「……やだ、いや、しない」
「ほんまに?ほしくない?」

離れかけた手を掴んで押しつける。丸井の唾液に濡れているものを改めて見て、彼がのどを鳴らした。笑いながら迫る。

「な?」
「……じゃあ、キスして」
「……ま、ええわ」

自分のものと間接キスとはあまり歓迎しないが、そのまま丸井にキスをする。濡れた唇を舐めて、体の力が抜けたのを見て丸井のベルトに手をかけた。ひくりと跳ねた体は、しかしそれ以上抵抗を見せない。

「こんなとこで脱いだら風邪ひきそうじゃな」
「……やめる気ねえくせに」
「もちろん」

仁王の正面に膝で立たせ、緊張した丸井を見ながらズボンを下げる。ふるりと震えたのは単に寒かったのだろう。早く終わらせてやろうと、体を引き寄せて後ろに手を伸ばした。ふと思い出し、ポケットからローションを出して手のひらに馴染ませる。お前なんでそんなもん、呆れた声も聞かずに双丘に手を滑らせた。ぬめりをまとったそれは一応人肌にはしたつもりだが、仁王の手が冷たいのでどうしようもない。すがるように仁王の頭を抱く丸井の腹に、セーター越しにキスをする。本当は脱がして触れたいが、流石に寒いだろう。
外でしておいて今更と言う気もするが可哀想だ。濡れた指で襞を撫でて侵入する。びくびく震える体を抱きしめて、早く終わらせてやろうと知っている場所を探した。そこ、小さく震えた声が落ちてくる。指を増やして弱いところを刺激すると、あらわになった丸井の性器も立ち上がっていた。声にならない声にあおられながら、急かすように揺れる腰に応えて性急に慣らしていく。

「に……におっ」
「ん?」
「ま、待て」
「もうええ?」
「待てよ、やっぱり」
「……ああ、ゴムならあるけん」
「ッ……」

一度丸井を離れさせ、取り出したコンドームを準備する。息を荒くした丸井が仁王の肩に手をかけたままそれを見ていた。笑って見返すと顔を背けられる。

「ブン太、後ろ向いて」
「……嫌、前がいい」
「ええけど……制服汚れるのう」

立ち上がったものを指先で触れると丸井が唇を噛む。ローションで濡れた手で軽く抜いてやるとすぐにほぐれた唇から甘い声が落ちた。

「……かわええの」
「バカッ」

そんな声で割れても興奮するだけだ。セーターとシャツの間に手を入れて、下からゆっくり体を撫でる。肩を掴む手に力が入った。何をされているのかわからない丸井にキスをしながら、シャツ越しに乳首を撫でる。

「こっち触ってやれんかったのう」
「ッ……いい、からッ」

逃げかけた腰を引き寄せて、胸ポケットからそれを指先で挟んで取る。腕を抜いてそれを丸井の前に出すと素直にクエスチョンマークを浮かべた。

「ブンちゃんヤる気やの?」
「な……なんで?」

手にしたコンドームを開けて丸井のものにかぶせた。困惑しながらも快感に考えを邪魔されて、丸井が喘ぐ。ぞくぞくっと鳥肌が立った。

「入れるぜよ」
「……んッ」

腰を支えて熱を追い当てる。ゆっくり体を下ろして、飲み込む熱に丸井の声は抑えられない。すがる手が仁王の頬に添えられ、求められるままに舌を絡める。キスをしながら突き上げて、離れた丸井が声を上げた。

「仁王ッ……」
「ん、」
「あっ……あ!そ、こ」
「ここ?」
「そこ、じゃないッ」
「ははっ……こっちじゃろ?」
「あッ!」

せっかくの座位の体勢であるから丸井に動いてほしいのだがそんな余裕はなさそうだ。

「に、におう」
「……早い。もうちょっと我慢して」
「や、もうッ……」
「……うん」

丸井を抱き返して強く突き上げる。そのたびに締めつけられて仁王も限界は近くなる。額には汗が浮いて、外だということを完全に忘れていた。最後に溶けきった声で名前を呼ばれて、ほとんど同時に熱を吐き出す。強く抱き合った熱の体の力が抜けて、酸素を求めて繰り返される荒い呼吸を奪うようにキスを交わす。バカみたい、小さく丸井がつぶやいた。

「……クリスマス一緒にいようか」
「……たりめーだ!こんだけしといて!」
「ハイハイ」

このままだとまた盛り上がってきそうで、丸井の体を支えてゆっくり自身を抜いた。その感覚はまだ行為の延長で、丸いのからだが快感を逃そうとするのを笑って見ていると睨まれる。

「つーかっ、お前なんでそんなに準備万端なんだよ!いつの間にポケットに……」

いつから胸ポケットにコンドームを入れたままだったのか考えたのだろう。バカ、と言い切る唇をキスで塞いだ。

「いつブンちゃんが誘惑してくるかわkらんじゃろ?今日みたいに」
「あっ」

さっとコンドームを外して、拭くものは何もないのでそのままズボンを直す。丸井も顔をしかめながら立ち上がって服を調えた。しばったコンドームを持て余し、仁王は指先でつまんで揺らしながら丸井を見る。

「……ブンちゃん」
「何」
「捨てるぜよ」
「捨てろよ!……どこに?」

気づいた丸井ににやりと笑い、次の瞬間仁王は振り返った。止める間も与えず投げ飛ばす。

「お……おまっ……」
「さっ、便所行ってきれいにしてこ」
「ちょ、マジで投げた!?」
「うん」
「バッカ……」

呆然と捨てられた方向を見ている丸井を引いて、仁王は屋上を出る。何と言ってもグランドに向かって投げたのだから、誰かが来てもおかしくない。そこまで飛んでいるとは思えないが、更衣室への通り道辺りには落ちただろう。

「……お前……サイテー……」
「えー、でも好きじゃろ?」
「……さっさと嫌いになりてーよ」
「あんまかわいいこと言うともう一回」
「しねえ」

 

 

 

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