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「仁王は最近体調が悪いのかい?」
「……なんで、ちゃうよ。気ィ抜けとるだけじゃ」

勘のいい人間と言うのはいる。一番厄介なタイプだ。そう、と微笑んで隣を指さした幸村に頷く。もう風が冷たいね、と隣に座った彼が空を見上げて視線を追った。よく晴れた空だが、夏のような日差しはない。もうあんな夏を肌で感じることはないだろう。屋上はお決まりのサボりスポットで、探せば大抵ここにいるとバレてしまっている。学校の周りには高い建物がないので、屋上からだと障害なく空が見えた。

「サボりが増えたね」
「俺がやる気ないのは生まれつきじゃ」
「一生懸命になるのはテニスだけ?」
「ブン太も」
「それは失礼。こないだ部活に来なかったのはデートかな」
「そう。……ほんまは、部活はもうええんじゃけど。俺が行かんとブン太もやめそうで」
「自惚れてるね」
「そうじゃ、希望。最近テニスすると疲れるんよ」
「おじいちゃんだなあ。痩せたよね、骨みたい」
「幸村に言われてもな」

あのとき、試合に勝つことができればあんなに丸井を泣かせはしなかったのだろうか。勝とうと思えば勝てただろう。年を経て少しぐらいなら天候を操ることもできるようになっているし、イリュージョンと称されたあのペテンももっと完璧にやれた。ただあの若者と人間として戦いたかったのは事実で、その結果が負けであったのだから後悔はしていない。丸井を泣かせてしまったけれど、それが彼の成長になっていれば喜ばしいことだ。どんな素敵な大人になることだろう。

「部活おいでよ。一度仁王と真剣に試合がしたい」
「俺はしたくないのう。幸村のテニスは怖いんじゃ。猟銃思い出す」
「猟銃?」

何度かお世話になりかけたものだ。狐にとっても平和な世になったと思うが、このご時世、山で生活している狐はどれほどいるのだろう。

「……部活やのうて山行きたい」
「仁王時々それ言い出すよね」
「実はな、俺森の妖精さんなんじゃ。隠しきれん愛らしさがにじみ出とるけんわかっとったかもしれんけど」
「はいはい。……そういえば1年のとき、お前遠足張り切ってたよね」
「ん〜……そうやっけ」

あのときは山へ登ったのだ。周囲の不平不満を聞きながらもひとりでさっさと歩き出し、真っ先に頂上へついた。教師に止められなければもっと奥まで分け行っていただろう。ほとんど無意識だった。――山へ行こうか。無様な死体を街中にさらしたくはない。最近死のことばかり考えていてどうもよくない。丸井に会いたくなる。

「幸村も今日はサボりか」
「優等生してきたからね、羽目を外したいときもあるよ」
「先生心配しとるな」

体を倒してコンクリートに四肢を伸ばす。背中にひやりと冷たさを感じた。少しずつ近づく秋の気配が心地よい。もう数週間もすれば葉も色づき、枯れ葉の匂いが鼻をくすぐるだろう。デートで山に行きたいと言えば怒るだろうか。わがままを言ってみたい気もする。 幸村が膝を叩き、薄目を開けてみれば目が合った。にっこりと万人を騙す笑顔で笑った幸村が体を返し、仁王の腿を枕に横になる。

「……寝心地は?」
「かたい。全然嬉しくない」
「勝手に使っといて偉そうに」
「ブン太悩んでるよ」

風が流れていく。言葉を隠すように風が耳元をさらって髪を舞い上げた。答えずにいると脇腹をつねられたが、振り払うだけに止めておく。

「ほんとに仁王はわかんないや」
「寝て覚めたら、夢かもな」
「どこからが夢?」
「俺にはわからん」

自然に閉じたまぶたに任せて睡魔を呼ぶ。寝ておかないと体が保たない。うつらうつらとする意識の中で聞こえたのは女の声だ。仁王、と呼ぶ声は、……名前をくれた、あの優しい少女の。今まで自分の名を呼んだ数多の声に入れ替わり、丸井の声や幸村の声もする。

 

ふっとすくい上げられるように意識が浮上し、目を開けた先にあるのはさっきと変わらない青空だった。違ったのは腕に感じる重み。見ると仁王の腕を枕に丸井が寝ている。無邪気な寝顔に頬が緩んだ。もっと早く出会えればよかった。可能なら人々が狐に化かされてくれていたあの時代。きっと丸井が手を叩いて喜ぶような、いろんなものを見せてやれた。いずれ別れるのだと気づいていれば、彼女も楽しませてやれたのに。抱きしめようと体を返すと腿に力がかかっていたのに気づき、しかし体は動いてしまった。鈍い音と幸村の声が屋上に響く。

「イッター……」
「すまん、忘れとった」
「俺がバカになったら責任取ってよね」
「治りますようにって神頼みぐらいはしちゃる」

頭を撫でながら幸村は膨れっ面で体を起こす。枕に文句を言っていたわりには幸村も寝ていたらしい。仁王の向こう側の丸井に気づき、わざと隠すように抱くと幸村は笑って立ち上がる。

「お邪魔みたいだから行きます」
「これはお気遣いどうも」
「今日は部活来る?試合しようよ」
「幸村から誘われたら断れんのう」
「ふふっ、じゃあまた放課後にね」

ひらひらと手を振って幸村が去っていく。いつか大成するだろうと思わせるあの立ち振る舞いは、今まで出会った人間の中でも目立っていた。どこかで仁王のような人間ではないものの血が混ざっているのかもしれない。性の観念で言えば乱れてると言われているこの世と野生の世界は違うものだし、仁王も色々と遊んでいた過去があるからひょっとしたらどこかに子種を落としていてもおかしくなかった。とても丸井には聞かせられないと思う。もちろん聞かせる予定はないけれど。

いつの間に屋上へ上がってきたのだろう。今が何時かわからないが、見れば丸井の向こうに弁当箱がある。昼休みか、もしくは4時間目だ。人工的な赤い髪をすいて、沸き上がる愛しさの先を求めて鼻をつまんだり頬をつついたりしていると丸井が目を開けた。寝ぼけた目が数度まばたきを繰り返し、仁王をみとめてにこりと笑う。

「おはようさん」
「お前なんでこんなとこで幸村くんと寝てんだよ」
「幸村が勝手に枕にしてっただけじゃ。ブン太に呼ばれる夢見た」
「呼んだもん。お前起きなかったけど」
「おー、すまんの」
「飯食おうぜ、腹減った」
「食ってええよ、俺ないし」
「……だから……」
「ん?」
「……作ってきたから、お前の分も」
「ほんまに?」
「い……いらないなら、いいけどよ」
「いる、ほしい。ほんまに?」
「……やっぱりやらねー。全部俺が食う」
「意地悪せんとって」

起き上がって丸井を見ればぷいと顔を逸らした。かわいい、と言ってしまえば体を反転させて背を向けられる。名前を呼んで謝っても小さくなったままじっとしていて、笑いをこらえて近づいていき首筋に息を吹きかける。びくっと肩を跳ね上げて、首を回して仁王を睨んできた頬は赤い。

「ありがと」
「……お前……好き嫌い多いから、食えるかわかんねーけど」
「食べるよ。でもその前に」
「……前に?」

ちらとこっちを見上げる丸井と視線を合わせ、逃げられる前に顔を寄せる。唇を奪って押さえ込む。このまま倒してやろうと体勢を変えるとさすがに抵抗された。

「学校ではしない!」
「ちゅーぐらいええじゃろ」
「腹減ってんだよ!」
「はいはい」
「……キスだけもう一回」
「うん」

時々見せる甘えたがりな顔は長男だからこそだろうか。兄弟がいた記憶はないから仁王にはわからないが、部活やクラスでは見せない顔を自分には見せてくれるのが嬉しい。照れ隠しのように広げられた弁当のメインは栗ご飯で、指先に巻かれた絆創膏に気づいてからかおうとしたのになぜか泣きそうになって口を閉じた。柄にもなく年をとったと溜息をつきそうになる。

「ブンちゃん作ったん?」
「ご飯は母さんだよ。ほら、今日朝練なかったろ。でも起きちゃったからついでっつーか、……仁王、お前最近さ」
「ん?」
「……なんでもない」

ずるい顔をしたと思う。丸井が弱いのを知っていて顔を緩めて、口を閉じさせた。全てを話そうかと迷う。このご時世に狐や狸が人を化かすと思っている人間がそういるとは思えない。話して信じてもらえるとも思えないし、何より、いずれ姿を消すと言えるわけがない。それでも時々、騙している後ろめたさに襲われる。この仁王雅治にもヤキが回ったものだ。気持ちに嘘はひとつもないのに。

「ブンちゃんデートしよう」
「どこに?」
「どこでもええ……ああ、紅葉狩り行こうか」
「まだ早いんじゃねえ?」
「じゃあ季節になったら」

食べてる間にチャイムが鳴った。今から昼休みのようで、校舎から多くの声が漏れてくる。そのうちここへも切原辺りが上がってくるに違いない。

「ブンちゃん」
「何」
「もう一回」
「……お前、セックスしてから調子に乗ってねえ?」
「乗っとる。ブンちゃんが許してくれるなら家に閉じこめて逃がさん」
「ばか」

愛しさのこもった罵倒に笑ってキスをした。つき合いだしてからずっと手を出さなかったのは大事にしたかったのと、丸井にとって大きな存在になりたくなかったからだ。優しく抱いてやることはできる。しかし丸井にとって初めての性行為になることはわかっていたからできれば避けたかったのだ。仁王んちに行きたい、と言う精一杯の誘い文句の前に屈した自分は仕方ない男だと思う。

いつか丸井が素敵な恋をしますように、と、素直に願うことはもうできない。もう自分以外の誰かを好きになったりしないでほしい。そう思ってしまうほど好きになった自分は愚かだ。結局は人間と相容れるものではないから、別れがあることも知っているのに人を好きになる。人間ほど複雑ではなかったはずが、知らぬ間に人に染まったようだ。誰かを好きになるたび辛くなる。

「仁王、今日、行ってもいい?」
「おいで」

優しい子、かわいい子、愛しい子。死んだ恋がどこに行くのか、賢くなった人間も未だ知らない。きっと畜生などに耐えられる感情ではなかったから、神は恋心を与えなかったのだ。

「あ、におー先輩丸井先輩チィーッス。何で食い終わってんすか」
「もじゃもじゃは勉強してりゃいいんだよ」
「意味わかんねーし」

いつも母親手製の弁当をぶら下げてくる切原は、今日もいつものように仁王の隣に座って弁当を包むバンダナをほどいた。そこらの弁当箱では間に合わないのか、大きめのタッパーだ。いつもは同じようにタッパー愛用の丸井も本日は小振りの重箱であったため、丸井先輩食いすぎっすよ、と冷やかされている。

「ふたり分なんだよ!」
「ふたり?あ、仁王先輩か。ふたり分っつか、3分の2は丸井先輩食ってそう」
「赤也正解」
「ちげーし、ご飯ほとんど仁王が食ったじゃねえか」
「うまかった」
「お前さー、なんかこう……また作ってやるよって言えるもの選べよな。栗は田舎から送ってこない限りもうねえよ」
「うん……でもうまかったよ」
「俺が作ったの誉めろよな!」

一口分残った栗ご飯を食べて、咀嚼しながら考える。体が弱ってきたのは食べ物のせいかもしれない。やはり時々山が恋しくなるのは、生存本能か。幸村に見抜かれたように、体の調子は以前同様とは言えない。
――冬を、越せるだろうか。今までのツケと言ってしまえばそれまでだが、どうして今なのだろう。自分が死ぬなどと今まで考えたことがない。たまに出会う狐も自分以上に生きているなどざらだし、自分はまだ若い方だ。昼休みが終わり、騒がしかった屋上も静かになった。わあわあ言いながら帰っていった切原を見送り、仁王が腰を上げないからか丸井も座ったまま渋っている。

「……ブンちゃん行ってええよ」
「……仁王は?」
「腹一杯やから寝る」
「お前寝てばっかじゃん!……なあ、仁王」
「何?」
「……お前、……何隠してんの?」

答えられないのはつらいことだと、丸井に会わなければ知らなかっただろう。騙し騙しでごまかせるような関係ばかりをつないできて、その中で出会った大切な人とも感じなかった感情だ。きっと世の中が複雑になって、畜生には追いつけないせいで丸井とも向き合えないのだ。
どうして山をおりたのか、最近考える。山の生活に飽き飽きしていて、化けれるのだから化かそうしていただけだ。面白おかしく楽しみたかっただけだったはずなのに、結局あれからずっと人間社会にいる。

「ちょっと気ィ抜けとるだけじゃ。思っとった以上にテニスはでかかったんかのう」
「そう、か……お前公式戦で負かされたの初めてだったもんな。わざと負けたりはしてたけど。でもさ、まだ高校でもできるだろ!部活もあるし」
「そうやね、ブンちゃんが一緒やし」
「……どうせ寝るにしても教室で寝ろよ、お前朝からいねーじゃん」
「明日は出るけん見逃して」

不満そうに眉を寄せた丸井に笑いかけて、ごまかしているのが丸井にもわかっているのだろうがそのうち立ち上がった。部活でな、と念を押すように残して屋上を出て行く丸井に手を振って別れる。思わず溜息をついてしまった。

「……俺に何か用か」
「やぁね、心配してあげてるのに」

どこからともなくひょっこりと顔を出したのは見たことのない女子の姿をしていた。――それだけだ。わざと気配を感じさせていたのは彼女だろう。しかし同じ匂いがする。

「……死にそうね。昔はよかったけど、やっぱり今は生きにくいみたいよ。あたしらみたいなのってさ、状況には適応できても環境には弱いのかしら。前にどっかのジジィが言ってた、あたしらみたいな化け物は、やっぱり人が信じてないと存在できないんだって」
「まあ……人が生み出したもんやけんな」
「狐や狸はまだしぶとい方よね。大層なやつらはいなくなっちゃったし。死にたくない?」
「……わからん。そろそろ楽になりたい気もするの」
「食べちゃえば?」
「は?」
「さっきの子。ころころしてておいしそう。そしたらずっと一緒じゃない?」

目の前でスカートが風になびく。ゆっくり見上げると彼女は微笑み、しかし目が笑っていない。これは、自分とは少し違うものだ。……いや、自分が違うのだろうか。人間と馴れ合い混じっている自分がおかしいのかもしれない。仁王の不安を感じ取ったのか、彼女は面白そうにくすくすと笑う。

「あんたがいつからいるのか知らないけど、きっと若いんでしょうね」
「……多分な」
「人間には必要だったの。あんたみたいなやつも、あたしみたいなやつも。それからこういう展開も」
「何?」
「あんたはあたしに会ってしまったから、あの子を食べたくなる」

それが悪魔のささやきでないと、誰が教えてくれるだろうか。高鳴った心臓にひやりとする。

「呪いでもかけたつもりか」
「あんたが呪いと思えばそうなるわ」
「ばかばかしい」
「あんただって同じよ。でも仲間がいなくなるのはちょっと寂しいから、少しだけ助けてあげる」
「何を……」

ぐいと顔を引かれたかと思えば次の瞬間唇を塞がれる。流れ込んでくるものにくらくらして倒れ込みそうになるが、少女の外見からは考えられない力で押さえつけられそれすら許されない。ようやく離れた頃には疲労感に襲われて崩れ落ちた。

「何を……」
「よく味わいなさい。じゃあね」

ウインクを残して去っていく背中を横になって見送った。大きく息を吐くと震える四肢に力が渡るのがわかる。生気を送り込まれたのだろうか、力は感じるが拒絶も起きている。めまいのような感覚がすぎてしまえば楽になった。こんな風に自分以外の人間ではないものとこんな風に関わったことはない。吐き気がする。山から下りてよかった。同族とは交われない。
軽く咳をしてそのまま丸くなる。少し眠れば体に馴染むだろう。それから部活へ行ける。あいつらの考えてることはわからんど心中でぼやき、自分が人間になっていると知る。人間になってしまえればいいのに。

少しずつ落ちゆく意識の中で、頭に浮かぶのは丸井だった。好きなだけじゃどうにもならないと言ったのは、幸村だっただろうか。あれは確かテニスのことだったけれど似たようなものだと思った。追い求め続けた熱さは目の前にしてもその手中におさめることができない。仁王が好きなんだ、震えた丸井の声を聞いたとき、自分はどうして笑ったのかを思い出す。あのときはまだ、獲物の一匹にすぎなかったのに。

「仁王!」
「イッ!」

痛みによる強引な覚醒に頭を抱えて身悶える。涙でぼやけた視界をめぐらせればユニフォーム姿の幸村が仁王立ちで立っていた。凶器はそのかもしかのような脚なのか第三の手のようなラケットなのかわからないが、乱暴なのに違いはない。

「部活来るって言っただろ。何時間寝てるのさ」
「あー、すまん……」
「ほら行くよ、時は金なり!時間は無限じゃないんだからね」

手を引っ張られて立ち上がる。頭は痛いが体が軽い。見ず知らずの人間ならざるものに助けられたとは薄気味悪いが、礼を言いたい気分だ。今なら幸村にも勝てるかもしれない。

「ブン太は?」
「心配してるよ」

逃げるとでも思っているのか、幸村は仁王の教室まで着いてきた。まだ残っていた日直にお前いたの、と顔をしかめられ、そう言えば朝から出ていないような気がすると気がつく。1時間目に出席したのは昨日の記憶だろうか。

「仁王サボりすぎなんじゃない?」
「明日からは出るよって、勘弁して」
「ダイエットじゃないんだからね」

はいはいと適当に聞き流し、鞄を掴んで教室を出る。その腕をしっかりと幸村に捕まえられていて、自分は相当信用ないらしいと口に出すと当たり前だろ、と頷かれてしまった。

「ブン太にも言えないような、どんな大層な秘密を抱えてるの?」
「それは秘すれば花っちゅーやつじゃな。言ってしまえば幻滅されるかもしれん」
「ブン太はそんなに半端な気持ちじゃないよ」
「だからこそ」

不満そうな幸村に笑顔を向ける。仁王が本音ではないことぐらい見抜いているのだろう。幸村がいれば、きっと丸井は大丈夫だと思う。人間に頼りきってしまえる安心感は昔は持っていなかったもので、それは幸村だからなのか自分が変わったからなのかはよくわからない。しかしきっと後者なのだろう。更衣室の前でちょうど出てきた丸井に会う。仁王を見つけてぱっと表情を変えて走りよってきた丸井を抱きしめそうになる。

「仁王!」
「おはよーブンちゃん」
「おはよーってお前……まさか今まで寝てたわけ?」
「腹いっぱいになったけん」
「……大丈夫なのかよ。具合悪いとかじゃなくて?」
「大丈夫、よう寝たしうまい飯も食わしてもらったけん。すぐ行くよ」

じっと目を見て言い聞かせるように話せば、子ども扱いされていることに顔をしかめながらも照れ隠しなのかガムを口に放り込む。君のためにもう少し生きようだなんて、聞きたくないだろう。どうしても泣きたくなってしまって、逃げるように更衣室へ入った。

 

 

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