す 1

 

注文してもいないのにメイドロボットが届いた。開けてもいないのに箱から出てきてこきこきと間接を鳴らしている。赤い髪で頬はふっくらとしていて、メイドロボットにありがちのちょっと可愛い顔だった。すでにメイド服にエプロンも着けていて、今すぐにでも働ける。あれほどいらないと言ったのに。送ってきたのは先日ここを訪れた柳だろう。溜息をついた仁王に今気づいたかのように、メイドロボットはこっちを見た。

「初めまして、マスター」
「送り返すから箱戻れ」
「ノー。到着後、部屋の片づけを言いつかっております」
「あいつ……」

抜かりのない男だ。横目で見たきょろきょろと玄関を見回しているその姿は人間にしか見えず、技術も進化したものだ。ほんの十数年前は軽量化ができずに苦戦していたものだが、世間から離れているうちにここまで人間に近づいたのか。そのうち人間はいらなくなるな、何度となく友人と交わした議題を振り返る。

「柳もどうせなら色っぽいねーちゃんにしてくれりゃよかったんに」
「聞こえてんだよ白髪野郎」
「……人工知能か?」
「イエス。部屋を片づけます」
「うっわ〜こわ〜。A.I.まで性格破綻の時代になっちょる」
「うわっ」

部屋に入っていったメイドが声を上げて立ち尽くした。そこは仁王だって入らない。昔の同居人が育てていた観葉植物が育ってジャングルとなり、不要品を押し込めていくので下手をすると遭難しかねない。

「……えー……マスター、掃除道具は」
「その部屋のどっか」
「……やべっ……帰りてえ……」
「帰れ帰れ」

尻のポケットからキャッシュカードを抜き、肩を落としたメイドに預ける。きょとんとした表情は、ますますロボットだと思えない。

「マスター」
「掃除機でもなんでも買ってきぃ。んで、終わったら帰れ」
「帰れません。死ぬまでお世話をするように言われています」
「夜も世話してくれんのか?」

メイドは無表情でぴっとエプロンのポケットからカードを取り出し、それを仁王に差し出す。ピンクのカードに裸の女性が浮き上がり、仁王にウインクをしてアクセス番号を囁いた。

「処理なら呼びます」
「お前で足りよう」
「料理をさせれば一級品!掃除をすれば新居とばかりに壁は光り、ウエディングドレスも縫える器用さで最高のメイドロボットとたたえられたこの俺に!テメーのふにゃチンしゃぶらせようってのか!?死ね!そのような機能はついておりません」
「うわー不良品……はああ、ったく……お前、名前は?」
「ロボットですから」
「制作者はくれんかったか。お前さん大量生産型じゃなかろ」
「……では、ブン太とお呼び下さい」
「ブタ?」
「刺すぞ」

厄介なものを送りつけられたものだ。文句を言おうと、出かけるブン太を見送ってから柳に連絡をする。電話を壁の埋め込みにしたのは友人たちで、仁王がすぐなくすからだ。

「おう柳、あの不良品さっさと引き取りに来い」
「そのまま世話をしてもらえ。そんな生活をしていると死ぬぞ」

壁のスピーカーから聞こえる柳の声は楽しげだ。舌打ちをしてスピーカーを叩く。

「ふざけんな。俺はひとりになりたくて隠居したんじゃ。……しかもあれ、女の服じゃが男型じゃなか?」
「よくわかったな。脱がせたのか?」
「ちゃうわ。悪趣味やの」
「最近は多いぞ。女性のタイプだとどうしても故障が増えるようだからな」
「気色悪い話すんな」
「まともな生活して戻ってこい。待ってるからな、仁王教授」
「あほか、誰が戻るかい」

接続を絶って溜息をついた。どうせロボットなら、クラシックないかついタイプにしてくれればよかったものを。調べたわけではないが見た限り感情豊かで、段ボールで送られてきたのではなければロボットだとわからない。家事ロボットに人工知能をつけるようになるとは、人類も何を考えてロボットを作ったのだか、と呆れてしまう。

「……そんなつもりでつくったんじゃ、なかったんに……」

 

 

*

 

 

一眠りして起きてみると、空気清浄機が止められて窓という窓が開けられていた。異臭が漂っているのは、真面目なロボットのせいだろう。いや、そもそもの原因は自分の怠惰なのか。鼻をつまんでブン太を探すとなぜか火炎放射機を抱えている。

「おはようございます、マスター」
「ひどい臭いじゃ」
「お言葉ですが、マスター」
「なに」
「お前が一番臭い」
「……あー、風呂が壊れたんいつやったかのう」
「直して沸かしてます。入ってきて下さい。家の中にいるのに浮浪者のようですよ」
「背中でも流してくれるんか」
「いえ、今から巨大化した食虫植物を焼き払ってきますので」
「……うちん中、すごいことになっとるのう」
「ネズミがいっぱい死んでました。ネズミってもう絶滅したと思ってました」
「やつらはしぶといからのう」
「着替えも置いてありますから。あと、これをお返ししておきます」
「ああ」

返されたキャッシュカードを受け取り、そのまま見ていると不意ににこりと笑った。顔があるのなら笑うぐらいしなければ不気味だろうな、思っていると柔らかそうな桃色の唇が開く。

「邪魔だから風呂行けっつってんの」
「……はいはい」

こんなのに世話してもらえだと?鼻で笑って浴室へ向かう。自分でもそろそろどうにかしようと思っていたので手間が省けた。風呂場はまだ少し薬品臭が残っているものの、カビひとつなくピカピカに磨かれている。ボディーソープやシャンプーのボトルまできれいになっていて、メイドの仕事が早いのか自分が長時間眠っていたのか考えたが、無意味な思考だと中断した。
入る前にキャッシュカードの残高を調べてみると使った金額はささいなもので、ついでに見た収入がまた増えていてうんざりする。いっそ金がなくなれば餓死でもするだろうに。

体を洗わずに浴槽に飛び込んだ。元々風呂は嫌いだが、湯の中でいつから入っていないのか数えてみて自分にあきれた。これではロボット風情に臭いと言われても仕方あるまい。頭をかいてみると伸びた爪にふけが詰まる。ドアをノックされ、見れば曇りガラスの向こうに赤い頭が見えた。

「いやーん、覗き?」
「誰がテメーのお粗末なもん見に来るかよ。植物がしぶといので薬品をまいたのですが、時間がかかりそうなので」
「なので?」
「先にマスターをきれいにすることにします」
「は?」

仁王の意志とは無関係にブン太は中に入ってきた。メイド服は脱いでショートパンツとTシャツの姿で、そうしているとまるっきりただの少年だ。ブン太は浴槽の仁王ときれいな湯に浮いた汚れに顔をひきつらせた後、笑って仁王を引っ張りだした。逆らうと恐ろしいので大人しく出て、指で示された椅子に座る。メイドとは言え、おそらく防衛機能もついているはずだ。どうも自己コントロールに支障があるようで性格が悪いから、何をされるかわからない。それとも世間ではツンデレブームが再来したのだろうか。
くさっ、と余計な一言を言いながら、ブン太は仁王の頭を洗っていく。流れる水が黒い。最近のメイドは何でもできるんだな、すっかり世捨て人だった仁王は感心するばかりだ。頭を洗う手つきは慣れたもので、気持ちよさに目を閉じる。久しぶりに誰かと触れ合った気がした。柔らかい指の腹が額に飛んだ泡をすくい、一度髪をすすいだがどうも満足できないようでまたシャンプーを泡立てる。

「ほんとに汚いですね、マスター」
「じゃかしい」

頭を倒して見上げるとブン太は真剣な表情で、懐かしい表情を見たような気分になる。シャンプーを流した後はコンディショナーまでという徹底っぷりだ。体も、と続けると面白いほど垢が出る。気分的に鳥肌が立ちそうだ、と言いながらもブン太は耳の後ろまでしっかり洗っていった。至れり尽くせりなのは構わないが、問題も生じてきた。ロボットがどうリアクションするのかが気になって黙っていたら、ブン太の手が下半身に伸びかけたところで動きが止まる。

「……マスター、勃起していますが」
「生理現象じゃ。こればっかはどうもならん」
「洗いにくいのでおさめて下さい」
「そんなことせんでも出してくれたらええよ」
「調子に乗んなよ」
「いつまでそう言えるかのう」
「フン!」
「欲しくてしょうがないって俺に抱いてってねだったら、スクラップにして捨ててやるけん覚えとき」
「は……?」
「ちゃんと洗って出るからええよ。……なんか、草吠えとるし」
「……そのようです。ではマスター、足の指の間もちゃんと洗って下さいね」
「はいはい」

出て行ったブン太が姿を消し、仁王は溜息をつく。疲れた。ついでに自分にまだ性感が残っていたことに驚き、持て余す。体の機能はそう簡単に失われるものではないらしい。しかし体の反応と性欲は別だ。握った自分自身を乱暴に追いつめ、きれいな床に精液を吐き出す。息を吐いて体を落ち着け、体を洗った。自己嫌悪で顔が歪む。

遠くで草が吠えた。あの部屋は一体何を栽培していたのだろう。飼育と言った方が正しいのかもしれないが、頭のよかった同居人は仁王の助けを必要としなかったからよくわからない。また風呂に連れ戻されてはたまらないので肌が痛いほど体をこすって浴室を出た。久しぶりに入ると確かに気持ちいい。裸足のまま廊下に出ると、黒いものや動いているものの入ったごみ袋を両手に持ち、ブン太が通りがかって見咎めた。

「まだ廊下は掃除してないんです」
「どうせいっちゅーんじゃ」
「スリッパをはいておいて下さい」
「ったく、注文の多い……くさっ」
「燃えたかすや、腐った実もありますから」

改めて見ればブン太はちゃっかりマスクをしている。

「嗅覚ついてんのか」
「料理の際や、火災などの場合に役に立ちます」
「ああ……面白いの。ちょっとばらしてみたくなったぜよ」
「俺に指一本でも触れたらその柔腕へし折ってやるからな」
「はいはい。どっか片づいた部屋ないんか」
「入浴中に寝室を掃除しました。……多分寝室だと思います、ベッドがあったのはそこだけだったので」
「ああ、あっちょる。……お前、家中掃除する気か?」
「はい。一通り部屋は見ました。一番厄介なのはあのジャングルですけど」
「……ジャングルの奥に、小部屋がある。そこだけは絶対入るな」
「なぜですか?」
「……死体が隠してあるからじゃ」
「……臭そうですね」
「ははっ、腐っとるかもな」

果たしてその通りにするかわからないが、仁王はそのまま寝室へ向かう。どうやら仁王をマスターとしながらも、それよりも柳の指示が優先的に働いているようだから聞かないかもしれない。あの部屋に閉じこめてあるものは、仁王の全てだ。

布団に潜り込んで目を閉じるといい匂いがした。布団も清潔なものに変えられている。たまにはこんな生活もいいのかもしれない。ただ、頭がクリアになって悲しくなる。散らかっていた部屋は隅々まで掃除され、書類は揃えて棚に入れてある。布団に入ったが眠いわけではなく、時間を持て余した。ブン太の悲鳴が聞こえて苦笑する。今度は何が出たのだろう。柳はいいきっかけをくれたのかもしれない。怒られないようにスリッパを引っかけて、ブン太の元へ向かう。

「ジャングル片づいたか?」
「ま……ますたぁ〜!」

廊下に逃げ出し一転して情けない声を出したのは間違いなくブン太で、感情が豊かなのにもほどがある。苦笑しながら近づくとさっと寄ってきて腕を取り、部屋の中を指さした。

「ゴキブリ……」
「ああ、まああいつらどこにも沸くけんな」
「早く絶対すればいいのに……」
「進化しとるしのー。あんま薬効かんじゃろ。ホイホイしかないな」
「ぎぇー!ぜってー嫌!有り得ない!古典的すぎる!」
「……掃除機買ってきたか?」
「え?……あ、はい、1台。出てきたのは使えませんでした」
「電気の配当代わっとるんかもな。古かったし。貸しんしゃい」
「それは……」
「掃除機。そばで構えといちゃる」
「……マスター!ちゅーしたい!」
「壊すぞ」

部屋に入るとそこは明るく、窓から日の光が入っているのだと知る。太陽など久しぶりだ。まぶしさに目を細めていると例の情けない悲鳴がして、掃除機を持ち上げて害虫を追った。ブン太のリアクションで逃げてきたものを吸い込んでやるだけだが、きらきらとした尊敬の眼差しを向けられてやりにくい。かつて世界中から羨望の的にされたこの仁王雅治が、今ではメイドロボットのためにゴキブリ退治をするのが精一杯とは。柳でなくとも惜しむだろう、他人事のように思いながら次々と吸い込んでいく。掃除機の中はあまり考えたくない。

「ったく、お前さんメイドのくせにゴキブリ怖がってどうするんじゃ」
「最近は多いんだよ!ギャップ求めるやつが!」
「あー、なるほどね。そうやって人間に近づけていくから簡単にセックスされるんじゃ。気が知れん」
「嫌味なやつ!」

足下を走り抜けていくねずみは平気らしい。ブン太は植物や植物だったものを次々とごみ袋に押し込んでいく。それを見ていると育てる人間のいなくなった植物たちが気の毒になった。水を遣ることぐらいできたはずだ。我ながら心が狭い。

「これはもう、専門家に頼まないと無理ですね。片づけだけならできますが、ねずみやゴキブリは……」
「パラダイスやったのにのう」
「……こんなのと共存してたんですよ、マスター。この部屋以外にももしかしたら……」
「いや、多分それはない。この部屋は天井まで水貯めても漏れんように作ってある。劣化もしとらんはずじゃ、 それほど古くないしの。見たこともないし」
「そうですか」

ほっと息を吐き、ブン太は片づけを続けた。書類や実験器具、家具家電ととにかくいらないものをぶちこんでいた部屋は大分すっきりしていた。こんなに広かったのかと改めて思う。同居人は区切って使っていたか。

「あ、あの部屋ですか?」
「ああ」

部屋の隅にドアを見つけてブン太が寄っていく。まさかなと思った瞬間にはドアを開けて中に入り、仁王は肩を落とした。言うことを聞かないロボットだ。これではまるで、人間ではないか。

「なんだ、こっちは片づいてるんですね……ヒッ!」

また悲鳴だ。思わず笑ってしまい、ブン太に続いて小部屋に入る。壁側の影になるところ、椅子に座る人影がある。久しぶりにその姿を見た。こっちにはねずみたちの侵入はなかったようで、きれいな姿だ。殺風景な部屋にはほとんどものがない。脱ぎ散らかした衣服がある程度か。ブン太がおろおろと仁王とそれを見比べているので、それに近づく。座っているのでわかりにくいが背丈は仁王と同じぐらい、めがねをかけた顔も仁王とよく似ている。髪の色は艶を失わないままのきれいなブラウンだ。そっと頬に手を添え、声をかける。

「比呂士」

ぎしりと音を立てそうな動作で首が上がった。仁王の姿を認めた目がわずかに細められる。笑うのは下手だ。

「おはよう」
「おはようございます、仁王くん」
「もうちょい寝とり」
「はい、お休みなさい」

ゆっくりまぶたが閉じられた。息を詰めていたブン太が体の力を抜き、恐る恐る近づいてくる。仁王の腕を掴んだまま、じっと観察していた。比呂士はもう動かない。

「……腐ってはいないようですね」
「まだ電池があったのに驚きじゃ。スリープにしときゃ保つもんじゃのう」
「ロボットですか」
「そうじゃ。お前の大先輩よ。聞いたことないか」
「あ……『はじめのA.I.』」
「そう」
「『仁王教授の才能の結晶、A.I.がスタートから完成型だったことが彼の才能を物語る』」
「完成型、ね。どこが完成なんだか」
「なぜこんなところに?」
「……イカれとるからじゃ。こんなおもちゃでも愛着はある、簡単には捨てられん」

柳と共同開発だった。きっかけはサボり癖のある仁王にやる気を出させようと柳が持ちかけ、それまで絵空事だった人工知能の開発に取りかかったのだ。ずっと昔のような気がしているが、まだ最近のことなのか。現在の技術なら、彼もブン太のように感情と合わせて笑わせることができるのかもしれない。

「『成長する人工知能。人のように学習し、博士号を取った』」
「それから詰め込みすぎで死んだ」
「え?」
「こいつはもう死んどるよ。この部屋はいいけん、さっさと掃除してしまおう。何度も悲鳴あげられたら安眠できん」

ブン太を引っ張って小部屋を出る。バッテリーを抜いた方がいいかもしれない。何かの拍子で火事にでもなったら大事だ。 出ていった目の前をゴキブリが飛んでいき、ブン太が悲鳴を上げて仁王にしがみつく。かわいいものだ。ロボットに愛玩要素があったのは昔からだが、こうも人間に近いと不思議な気分になる。――尤も、ブン太のような存在のプロトタイプを作ったのは仁王なのだが。
学習して成長する回路、それはほんのお遊びのつもりだった。ボディを作った柳と始めに立てた計画では、もうひとりの仁王を作ることにあった。自分がもうひとりいれば、面倒臭い会議など代わりに行かせるのに。何気なく仁王が呟いた一言が、限りなく人間に近いロボットを生んだことになる。 片付けを続けていると体が空腹を訴えた。いつの間にかかいていた汗を拭い、ブン太を振り返る。

「お前、燃料は」
「人と同じです」
「じゃあお前の自慢の腕をふるってもらおうかの。腹減った。お前の分も一緒に作ったらええ」
「かしこまりました」

まとめたごみ袋をついでに抱え、ブン太は部屋を出ていく。すっかりものがなくなった。あとは床や壁の汚れを磨くばかりだ。窓の外は夕方になっていて、久しぶりに1日の終わりを知った。静かになった部屋に立ち尽くしていると、この部屋を比呂士に与えたときのことを思い出す。ぎこちなく笑うその表情が、笑みだとわかったのはあのときだ。まだ世間に発表する前のこと。
実験を兼ねて好きなことをやらせようとしたが、嗜好というものを解さないようだった。とりあえず様子見として植物研究をテーマに与え、データを取るうちに動物にも興味を持ち出し、少しずつ成長した。それに気づいたときは柳とふたりで呆然としたことを覚えている。これはほとんど、命を作ったのと変わりない。発表を迷ううちに研究費用が底をつきそうになった。まだまだ試作段階で、維持費がばかにならなかったのだ。燃費の悪い体が、仁王には最後の砦だと思っていた。人にならないため、人を越えないため。

ドアを振り返り、もう一度小部屋へ入る。比呂士は指一本動かさず、仁王がここに閉じこめてからずっとこうしていたのだろう。人工知能とは言えロボットはロボット、三大原則に忠実な『いい子』だ。髪を撫でてやる。

「……ごめんな」

ブン太が呼ぶ声がして小部屋を出た。廊下で不満げな表情を浮かべ、腰に手を当てて立っている姿は偉そうだ。もうこのレベルになるとロボットではないのかもしれない。あるいは本当に欠陥品なのだろう、柳なら押しつけてきてもおかしくないように思える。

「どうした、不細工になっとる」
「台所にレトルト食品しかありません。腕のふるいどころがありませんでした」
「お前まさか手料理するんか」
「できます。ばかにしないで下さい」
「いやいや……」

昨今珍しい機能だ。仁王は物心ついてからレトルトではない食事をほとんど知らない。学生時代、非常時訓練として強制的にやらされたが、まずかった記憶しかない。そもそも一般食品を店で見たことがない気がする。

「俺はレトルトを憎む……」

食事中も背中を丸めたブン太の恨み言は続く。うっとうしくなってキャッシュカードを渡してやるとようやく姿勢を正した。

「マスターは何が食べたいですか?」
「食えりゃいい。あーあ、人口知能なんてアホらしいもんじゃなくて仙豆開発すりゃよかった」
「何ですか、それ」
「ひと粒で体力全快する豆」
「邪道!食を舐めてますね、マスター」
「うまいもんなんか食ったことないわ」
「かわいそうな人ですね」
「……お前の開発者の神経疑うぜよ」

ブン太はむっとした様子で仁王を見たが、相手にしていられないとばかりにスプーンを口に運んだ。何を考えてこんなかわいくない性格にしたのだろう。

「そのカードはお前持っとれ」
「いいんですか」
「俺使ったことないし。買い物引き落としやったけん。好きに使え」
「大丈夫ですか?プータローなのに」
「……古い言葉知っとるのう。権利料入っとるからええんじゃ」
「ああ……食べ終わったら続きをしましょう。めどがついたら買い物へ行ってきます」
「頑張れ。俺はもう体が痛い」
「引きこもってるから体力ないんですね」
「俺は元々理系じゃけ大した訓練しとらんのじゃ」
「軟弱」
「ロボットと一緒にすんな」

 

 

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